由香里の愛人日記

愛人日記54.男たちの復讐劇に私は恐怖を感じる

パパを手でイカした後、軽くシャワーを浴びた。
洗面台の鏡に映る自分の顔に改めて不快感を感じた。右の瞼の上と左の唇の端に白いガーゼが貼られていた。ほほ骨の数か所が紫色に腫れていた。
「まるでお化けだ」
私は思わずつぶやいた。
こんな顔をパパに見せたくなかった。

パパはこんな私の顔を見ながら、私の手の中でイッタのだろうか?
パパにすまない気持ちが湧き上がった。

パパは寝室でテレビを見ていた。
私はパパの視線を避けて、パパの後ろを横切ってベッドのシーツにくるまった。
自分が汚らしく、おぞましいものに思えた。

由香里
由香里
観てごらん

パパが呼んだ。私は動かなかった。

由香里
由香里
とにかく見てごらん

パパが何度も呼んだ。私はガウンを羽織り、顔を伏し目がちにしてパパの隣に座った。
「見てごらん」
パパがテレビの画面を指した。
全国ニュースが終わって、地方版のニュースの時間だった。
私は思わず画面に見入った。

昨夜レイプされた公園が映っていた。立ち入り制限の黄色い帯が、金網製の大きなごみ箱の周辺を囲んでいた。
ニュースはこうだった。
今朝早く繁華街の近くの公園で、二人の男性が、折り重なるようにごみ箱に押し込まれているのが発見された。
発見者によると、二人は全裸にされ、手はごみ箱の端に玩具の手錠で繋がれていた。頭髪は乱雑に刈り上げられ、顔をひどく殴られ、鼻が潰されるなどの重傷を負っていた。首から札がぶら下がっており、強姦天誅、と書かれていたという。
救急車が駆けつけ病院に運ばれたが、命には別状はない、とのことだった。
ただ、精神的動揺がひどく、うわ言を口走っていたという。
警察では事情聴取を行っているが、何も覚えていない、と繰り返すばかりで、事件の全容は不明だった。

その時パパのスマホが鳴った。
電話に出るとパパが言った。
「ニュース見たよ」
「彼らは二度と由香里ちゃんの前に姿は現さない。あの繁華街にも近寄らない。警察には一切何もしゃべらない。襲った由香里ちゃんの名前や、以前アルバイトをしていた店の名前など、一切口にしない。それなりの脅しをかけたからね。」
声からして、相手はあの遼介さんだった。
「ありがとう」パパが言った。
「また、会おう」
そう言って遼介さんが電話を切った。

「あの遼介さん?私のための復讐?」私は訊いた。
「そうだよ。」
「怖いわ」
「何が?」
「男たちのやることが。」
「熊谷とボーイが由香里に酷いことをしたからさ」
「分かるけど、パパや遼介さんも怖いわ」
「なぜ」
「暴力的で残酷だから。」
パパは暫く黙った後に言った。
「そうだね。男は暴力的で残酷なところがあるね」

二人の間に少しの間、沈黙があった。
沈黙を破ってパパが微笑みながら言った。
「ひどい顔をしてるね」
「見ないで」私は掌で顔を覆った。

パパが優しく私の掌をのけて言った。
「俺には由香里の全てを見せて。その顔も由香里だ。愛してるよ」
パパがジーっと私の目を覗き込んだ。
そして軽く、ほんの一瞬、パパがキスした。
レイプのあのおぞましい感触はなかった。

次いでパパは立ち上がって寝室のカーテンを開け放った。
ベランダから秋の朝の光が降り注いだ。
「由香里、新しい朝だ」
ベランダの向こうに都会の空が晴れ渡っていた。
「由香里も新しいよ」
パパはそう言ってシーツの上から私を抱きしめてくれた。

そしてパパが言った。
「暫くは俺からは電話を入れない。俺に会いたくなったら由香里から電話を入れて欲しい。いいかい」
パパが、レイプの後遺症でのペニスへの恐怖が和らぐまでの思いやりだった。
「ありがとう」
私は小さな声で言った。

その朝、私たちはタクシーに乗り、パパはある駅の近くで降りた。私はそのまま自分のアパートに向かった。
私は車の中から、通勤ラッシュの人混みを放心して眺めていた。
脳裡で昨夜のレイプの場面がおぞましくよぎった。

私は新しくなれるかしら?
そう思った。