正輝と別れてからしばらく経ったある夜、パパが瀟洒な料理屋へ連れて行ってくれた。
「もうおいでです、こちらへ」
女将はそう言って襖を開けた。座敷の間があり、縁側の向こうに夜の日本庭園が広がっていた。
座卓を前に品のいい白人の中年の男と日本人の三十代くらいの美男子が座っていた。
私はは思わず声を上げた。
「ルーカス!ジョージ・ルーカスさん!!」
「ハロー!!ユカリさん」
「それに、猛さん!!」
「お久しぶり、由香里さん」金城猛が由香里に微笑んだ。
二人とは沖縄のリゾートホテルで、夜のクルージングを楽しんだ仲だった。
そして、ルーカスと猛は沖縄でゲイの恋人同士となったのだ。
以前、私はパパからルーカスとのいきさつを聞いていた。
パパと沖縄へ行ったとき、パパの会社とルーカスの投資ファンド会社は、ビジネス戦争の真っ最中だった。
パパは帝国電器産業の役員で子会社のWWIT社を統括していた。
WWIT社は人工知とロボット開発会社で、世界的な規模で急成長していた。
ジョージ・ルーカスはアメリカの投資ファンド会社の役員で、、WWIT社に敵対的買収を仕掛け、完全買収を図っていた。
パパは猛を使って、ルーカスをゲイプレイに誘い、ゲイセックスの場面を盗撮した。
パパは、その写真を使って、ルーカスにある取引を持ち掛けた。
『予定通り、WWIT社を乗っ取ってあなたの役員としての実績を上げて欲しい。
その実績と功績を利用して、投資ファンド会社でトップクラスに君臨して欲しい。
その力を利用して、私の所有するペーパーカンパニーに年間十億円を振り込んで欲しい。
でなければ、この猛とのゲイプレイ場面の写真をばら撒く』
と迫ったそうだ。
その話を聞いた時、私は思わず言った。
「いつものパパからは想像できないわ。暗くて、卑怯で、凄くて、エゴイスティックで・・」
そういうと
「男には男の戦場があるんだよ。時には卑怯にも残忍にもなる。」
パパが、暗い目で、微笑んで言った。
正直、その眼にはぞっとした。
結局ルーカスは、パパのオファーを全面否定する行動に出た。
自分がゲイであることを社内社外にカミングアウトし、投資ファンド会社を去りアメリカに戻った。
そしてルーカスが指揮していた投資ファンド会社によるWWIT社の買収作戦は中止となった。
従ってパパが個人的に所有するペーパーカンパニーにお金を振り込む必要もなくなった。
パパの企みは全面的に失敗した。
ルーカスはアメリカに戻るとき、パパに電話で言った。
「あなたに感謝する。私はずっと自分がゲイであることを隠して生きてきた。
だが、あなたとのやり取りの結果、私は自分がゲイであることをカミングアウトする決意をした。
会社も家庭も失うかもしれない。だが、これからは私は誇りをもって私の生き方を貫く。
ゲイらしく生きていく。」
パパがいきさつを話し終わった時に、私に言った。
「俺は、ルーカスに負けたよ。ルーカスは勇気ある男だ。誇り高い男だ。」