由香里の愛人日記

愛人日記65.パパとのお伽噺のような時間がもうすぐ終わる

お昼まで私たちはベッドの中で、キスしたり、触れ合ったり、見つめ合ったりして、だらだらと贅沢な時間を過ごした。
パパが、お昼ご飯を外のレストランでで摂ろうかといったが、私は嫌だと言った。

「パパとだけの時間に、外の時間を持ち込みたくないの」
そう言うと、パパは分かった、と言って、優しくキスしてくれた。
「パパといるときは、お伽噺の中にいるの」
私がそう言うと、パパは興味深げに私の目を覗き込んだ。

小さいとき、お母さんがよくお伽噺をしてくれた。
お伽噺の世界って、素敵で、怖くて、苦しくて、愛おしくて、そして、私が主人公なのだ。
私が主人公で、私は時には怖い目に合うが、私は人に愛され、人を愛することを知るのだ。
そして、お伽噺の切ないところは、いつかはお話が終わるということを、お話を聞いている私は知っていることだ。
だから、一つのお話が終わると、もっと、もっとと、別のお伽噺をせがむのだ。

今、この時間は、パパとお伽噺を紡いでいるの。
だから、この部屋の中だけに閉じこもりたいの。
そして、もっともっと、パパとの物語を紡ぎたいの。
私はパパに小さな声でそんな言った。

パパは私の額の髪を掻き揚げながら、一層深く覗き込んできて言った。
「そうだね、お伽噺の中だね。素敵だ。で、お話の中で、俺は何の役?」
「ウーン」
私はしばらく考えた。
「王子様にしては年を取りすぎ、王様にしては、けばけばしさが無い、悪魔にして優しすぎ、モグラにしては恰好良すぎ、そーね、撫でると唸って気持ちよく大きくなるから、魔法のランプのジーニーかしら、?」
「撫でると大きくなってゆらゆら出て来るあのジーニーか?、青い体でで少し愛嬌のあるジーニーか?」
そう言って、パパは大笑いした。
「今は撫でないでね、年寄は、さっきのでダウンしてる」
パパはそう言って、私の乳首をいたずらっぽく舐めた。
私もいたずらっぽく、パパのペニスを握ってみた。
確かにダウンしていた。
キャハ
私も思わず笑ってしまった。

パパがカーテンを大きく開け放った。
ベランダの向こうに、秋の空と都会のビル群が広がっていた。
空はコバルトブルーに輝き、ビル群はお話の中のお城に見え、まさにお伽噺のような風景が広がっていた。

パパがルームサービスで料理を頼んだ。
明るい居間で、野菜サラダとサンドイッチを二人で分け合った食べた。
静かな静かなお昼だった。
贅沢な静けさだった

私は、再び寝室に戻り、ベランダからの光を受けて白く輝くシーツに、潜り込んだ。
パパも私の横に滑り込んできた。
パパの肌と私の肌が心地よく触れ合った。
親密な時間がそこから湧き上がってくるのだった。

シーツを透かして入ってくる光りの中で、パパが私を見詰めて言った。
「由香里、聞いてくれ」

俺はこよなく由香里を愛している。
ここ半年足らずの交際で、俺は由香里に深く癒されたのだ。
由香里に心から感謝している。

ただ、フランスへ渡るにあたって、由香里の安全のためにも、由香里との交際は打ち切る。
それだけでなく、俺の周辺から由香里の痕跡をすべて消し去る。
まず、由香里との愛人契約は解約する。
一方的な解約のため、違約金として、由香里に一千万円を支払うことにする。

次いで、由香里の絵を幾人かの企業のオーナーに紹介する。
ホテルの経営者もいれば、自社で小さな美術館を運営している絵画コレクターもいる。
紹介者の名義は、ジョージ・ルーカスとし、やはり俺の名前は一切出てこない。
由香里は画家を目指しているが、それへの手助けになればいいと思う。

そして、の秘密のマンションは雁屋遼介に依頼して、処分する。
ここでも、由香里と俺の痕跡は一切残さないことにする。
そんな内容だった。

「パパ、お金なんかいらないわ。フリーのイラストレーターとして十分生活していけるわ。それに、絵の紹介先もいりません。自分の絵は自分で高めなくては、いつまでも駄目な単なるアマチュアの絵描きになってしまうわ。」
「分かるよ。でも、お金は必ずいつか由香里の役に立つ。受け取って欲しい。」
そう言って、パパは由香里の目を見詰めた。
「そして、絵の紹介先だが、それはチャンスを与えるだけであって、無条件に絵を買い取ってもらうという事ではない。目の肥えた人に、しっかりと評価してもらい、そしてアドバイスをもらうというのが目的なんだ。勿論、相手が買いたいと言えばそれはそれでいいよ。」

私は語り続けるパパをじっと見つめながら思っていた。
もうすぐお伽噺が終わる。
お伽噺の愛の時間が終わる
お話の中のパパが消える。
お話の中の私も消える。
そして、この秘密のマンションも消える。

涙が勝手にボロボロと溢れて来た。