パパとはめったに、一緒に外を歩かない。
そんなパパが今日、久しぶりに、お昼に食事に誘ってくれた。
レストランへ向かう途中
「由香里の脚をゆっくり見せて」
と言って、立ち止まり、私の脚をまじまじと見つめた。
「どうしたの」と言うと
「幻のようだ」
と、不思議なことを言った。
パパは立場上、極力人目を避けている。
だから車も地味。普通のプリウスに乗っている。
背広も地味。既成の濃紺のスーツを着ている。
一見すると冴えない中小企業の経理担当のおじさんっていう感じ。
秘密の隠れ家のようなゴウジャスで手の込んだマンションを自由にできるなんて、外観からは絶対に分からない。
パパは何かぶつぶつ言った。
由香里はまぼろし
俺の喜びもまぼろし
だから、由香里、とっても愛してるんだよ。
私は何となく切なくなってパパを抱き締めたくなった。