気が付くと、私は、公園の薄暗い入り口付近に、それこそ粗大ごみのように、車から放り出されていた。車は嘲笑うかのように去って行った。
申し訳程度に、私の着衣は元に戻されていた。今思うと、それは熊谷達がレイプ事件の発覚を遅らせて逃げるための方策だったと思う。
痛くて、怖くて、寒くて、暗くて、悔しくて、自分が汚らしくて、私は泣いていた。
座っているベンチは硬く冷たかった。周囲を照らしている公園の街灯は、青白く、寒々しく、無慈悲だった。
どれほど時間が経っただろうか?
遠くから
由香里
由香里
と呼ぶ声が聞こえた。パパの声だった。
私は無意識に、パパに助けを求める電話していたのだと思う。でも、こんな姿をパパに見られたくはなかった。パパの声に答えず、その場で、ただ泣いた。
「どうした、由香里」
その声に顔を上げると、パパがいた。パパがかがみ込んで私の顔を覗き込んだ。
私は、思わずパパの首に抱き付き、パパの胸に顔を埋めて、大声で泣いた。
パパが優しく背中に手を回して、幼児をあやすように、よしよし、と言って、私の背中を何度も何度も軽くトントントンと叩いてくれた。
衣服は最低限整えられているとはいえ、ブラウスの胸元は乱れ、中のブラは外され、ジーンズのボタンやジッパーは閉まっておらず、髪は乱れ、顔は殴られた痕と涙でくしゃくしゃになっていたと思う。
「怖かったろうね。まだ痛むかい?」
「まだ、痛い」
私は声を詰まらせながら、泣きながら言った。
パパは私の顔にかかった髪を掻き揚げた。
「これはひどい」と唸った。
パパに後で聞いたのだが、瞼や上唇が腫れあがり、所々内出血で紫色になっていたという。
「相手は分かるか?」
パパが怒ったように短く訊いた。
「熊谷」
私も短く答えた。
その後、パパは親しくしている病院に、タクシーで私を運んだ。その病院は、パパと初めて愛し合った高級シティーホテルのすぐ近くにあった。
私はそこで丁寧な処置を受けた。
女医さんが詳しく私の体を調べ、顔の傷の手当をし、何かの注射をし、精神安定剤を投与してくれた。
安静室でシーツにくるまっているとパパが入って来た。
「顔の傷は一週間もすれば消えるらしい。体の中には傷は無いらしいよ。よかったね」
そう言って、パパが私の手を撫でてくれた。
「今夜はこの病院へ泊ったらどう?その方が良いって、さっき先生が言ってたよ」パパが優しく私を見つめて言った。
「嫌っ」私は条件反射的に答えた。
「じゃ、どうしたい? 自分のアパートに帰りたいのかい? それとも恋人に迎えに来てほしいのかい?」
「恋人って、誰の事?」私は一瞬、戸惑った。
「由香里なら、恋人の一人や二人はいるだろうなと思ってるんだがね」
私はじーっとパパの目を見て言った。
「パパと一緒にいたい。マンションで」
パパが滅多に外泊出来ないことは知っていた。また、今夜、私は無意識に、緊急でパパに助けを求めたのだが、パパはスケジュールを相当無理して駆けつけてくれたのだろうとは思った。
でも私は訊いた。
「駄目?」
パパがじっと私を見詰め返した。そして言った。
「分かった。今夜は一緒にいよう」
パパがそう言ってくれた瞬間、涙が勝手にぼろぼろ溢れ出てきた。
「嬉しい、パパ」私は泣きじゃくりながら言った。
パパがそっとキスしてくれた。