愛人は幸せを求めてはならない。
愛人とは必ずいつか別れるから。
パパはそう言って私の目をジーっと見つめた。
真剣な目つきだった。
私も見詰め返した。
私はよく分からなかったのでパパに言った。
「愛人契約って何?恋人ではだめなの?」
するとパパが言った。
「恋人としての曖昧な付き合いではなく、はっきりとセックスの相手として由香里が欲しい。そしてお礼にお金を払いたい」
「ん?」私には何のことか分かりにくかった。
「恋人同士は互いにフリーだ。相手への強制力と占有権が無い」パパが言った。
「ん? じゃ、愛人って何? 愛人契約って何? 性の強制力?」私は訊いた。
暫く考えてパパが次のように言った。
俺もうまく言えない。
ただ、こう思うのだ。
由香里と会いたいときに会いたい。
由香里を抱きたくなった時に抱きたい。
由香里が誰かと付き合っていたとしても、優先的に由香里を所有したい。
由香里に対する占有権。
そうだね、由香里を抱く優先権。
契約だから、当然期間が限定される。
私は訊いた。
「じゃ、愛人契約って結局、売春契約よね。お金で私を占有するんだから」
パパはさらに困った様な顔で言った。
「法律の定義では、売春というのは、不特定多数の相手とのやり取りとされている。法律では愛人という定義は無い。愛人契約は由香里と俺だけとの決めごとなんだ。だから売春とは関係無い」
私は言った。
「じゃ、お金は要らない。契約は要らない。あなたを愛しそうだから」
するとパパが言った。
「俺を愛してもいい。だが幸せにはなってはならない。俺たちは必ずいつか別れるのだから。だから、由香里の人生の時間を奪う代償としてお金を払いたい。」
私は、話とは裏腹に、パパの優しさに、とても幸せな気分になって涙が出そうになった。
そして、そんなパパの説明を聞いていて、たくさんの疑問が出て来たが追及はしなかった。
私を愛してくれているパパが、そしてシンプルで難しい疑問に必死で答えようとしているパパが、とてもお愛おしく感じられた。
でも、厳しい現実は実感できた。
私は、パパに幸せを求めてはならない。
愛人は、必ず、いつか、相手と別れなければならない。
愛人は、根本的に、一人ぼっちなのだ、と。
でも、契約している間は、パパを思い切り愛しようと思った