由香里の愛人日記

愛人日記39.パパの仕業10 愛は幻だって? 愛することがとても寂しくなったこと

パパが言った。

愛は幻。
由香里は幻。
だから俺は由香里に溺れるんだ、と。

私も絵を描いたりしてるから少しは分かる気がする。
例えば、とても奇麗な夕焼を見た時、それは必ず時間とともに失われてゆく。だから、その時の美しさを絵にして、キャンバスにとどめたいと思う。
でも、絵は描げても、目に見えている実際の夕焼は揺らいではかなく消えてゆく幻だと、画家の卵として実感している。

パパにそんな事を言うと、そうだね、とうなずいてくれた。

でも・・・ と、パパが言った。
この年代になると、幻という言葉が不気味に切実になって来る、と。
二十代の幻は、別の幻が幾つでも代替えしてくれる。
五十代の幻は、もうかけ替えが無く、別の代替えの幻は無いのだ。
本当にジ・エンドだ、永遠にジ・エンドだ。

そんなことを言ったのは、あるレストランに向かっている途中だった。

続けてパパが言った。
「由香里。全身を見せてごらん。」
わたしは戸惑って、立ち止まった。
するとパパが私から少し離れて、私の全身を見渡し、見詰め、目で舐め回した。
上から、下から、横から、斜めから、まるでカメラで撮影するように。

「どうしたの、パパ」って訊くと
「由香里と言う幻が歩いている。幻が由香里という女に形を変えて歩いている」と、小さく呟いた。

頭が変になったとは思わなかった。
ただ、パパが何かの深みに嵌ったのかな、とは思った。

その後少しお洒落なレストランで食事した。
静かで素敵なレストランだった。
食事しながら、パパがテーブルクロスの下で、私のスカートの中に足を入れてきて指で割れ目をまさぐった。
私は、パパを見詰めながら小さな声で言った。
「パパ。したいの?」
するとパパが苦しげに言った。
「いや、由香里を感じていたいんだ。幻じゃない由香里を。」

私はとてもパパが怖くなった。
パパが幽霊のように思えた。
パパは本当は幻で、幻のパパが私の体を、私のバギナを求めていて、求められている私も幻で、私の感じてる全ても幻なんだと思ってしまった。

その後、パパと私はあまりお喋りをせず、そそくさとタクシーに乗って、あの秘密のマンションに向かった。
部屋に入るとパパが激しく私を抱いた。私の唇を激しく吸った。
そして、パンストの上からバギナを撫でながら言った。

由香里の全てを愛してるよ。
幻だから、よけいに愛してる。
由香里、お前は幻、お前の快楽は幻。
幻は由香里の体。

パパの堂々巡りのような切羽詰まった言葉と舌のうねりの繰り返しのなかで、私はパパの唇を求め何度もキスした。
それでもなぜか、その夜はとても寂しかった。

こんなに寂しい私にしたのは、パパの仕業だ!