スワッピング・悦楽の四重奏

四重奏19 浮気解消は仕事に没頭してr

2021/04/26

恭介との浮気、次いで夫の裕也と激しいセックスをした翌々日の月曜日から、再び私は過酷なスケジュールの中を走り回った。

新規クライアントへのプレゼンの準備が始まったのだ。
それは数十億の予算を勝ち取れるかどうかの、大手広告代理店とのコンペティションだった。
世界的な自動車メーカーのサクソニア・モーターズが新車投入を計画していた。その市場展開に向けての、総合的な広告戦略の立案と、それに伴うクリエイティブ戦略のコンペだった。

その車は、一気に全世界の市場に投入される戦略商品だった。メーカーの前会長が役員報酬計約50億円を過少記載したとして逮捕され、株式市場は激しく下降した。新車投入は、革新的な設計と外観デザインによる、市場への巻き返しへの戦略だった。

私の元にプロジェクトチームが編成され、世界の乗用車市場の変化、新型車種のスペックの優位点の洗い出し、競合車の設定と勝敗ファクター分析がなされた。

合わせて、新車コンセプトにふさわしいキャッチコピーの立案、及び俳優芸能人のキャラクター設定、さらにはTVCMからインターンネット、新聞等の媒体計画、PRイベントの全国展開計画などが速やかに立案され、決定されなければならなかった。
新車発表は六カ月ほど後だった。

新車プロジェクト会議には、外部から恭介が招聘された。
恭介のプロダクションの乗用車CMのクリエイティブ力は、業界でトップクラスの評価を得ていたからだ。

会議では活発で熱のこもった議論がなされた。
クライアントの自動車会社は、前会長の不正で市場から厳しい評価を下され、株価は下落の一方、市場シェア―も急激な下降曲線を描いていた。これらの流れをいかに食い止め、V字回復を狙うかが戦略目標だった。

総合プロデユーサーの私、マーケッター、アートディレクター、コピーライター、媒体担当、財務担当者十数人が議論を交わした。
司会は、私の右腕のマーケッターの梶木伸也が行った。
私は梶木の横に座り、会議全体を見守った。

昼になって、休憩となった。
会議室を出ると、廊下で後ろから恭介が声をかけてきた。
「いい会議でした。活発だった。きっと凄い案が出てくるよ」
「そうね」
私は素っ気なく答えた。

あの、恭介との浮気の現場の記憶を振り払おうと思った。そんなことにかまけている場合ではない。それに、恭介との関係は絶対発覚してはならないことだ。そんな無意識の思いが、私をよそよそしくさせたのだろう。

「俺に秘策があるんだ」
「どんな? 」
「あのクロード・シャノンを制作の総指揮に招いたらどうかと思う」
「えっ、あのシャノン監督? アメリカから? ハリウッドから? 」私は驚いて恭介を見詰めた。
「そうだよ」

クロード・シャノンと言えば、いくつもの作品で世界的大ヒットを飛ばした監督である。ハリウッド型の壮大な背景とハラハラするアクションの連続で、最後は人生の奥深さと愛ある未来を予感させて終わる。

「呼べるの?」
「呼べる! 」
「予算は?」
「範囲内で交渉する」
「時間はないわ」
「二週間で結論を出す」
「分かったわ、やってみて」
私は、総責任者として許可した。

恭介が微笑みながら、顔を近づけ、声を低めて言った。
「もう一度寝たい」
「その話は止して!」

私は少し怒気を込めて言った。