スワッピング・悦楽の四重奏

四重奏13 浮気は、夫に、絶対に、永遠に秘密。r

2021/04/26

唇が塞がれる感触で目が覚めた。
夫の裕也だった。唇を離して言った。
「由希、おはよう」
そう言ってじっと私を見詰めた。
私はその深い目に吸い込まれそうになった。
そうなのだ、私が裕也を好きになった一つの理由がその目なのだ。
深い思慮と慈悲に満ちていて、どこまでも鎮まっている湖のような瞳だ。

私はさりげなく裕也を押しのけて言った。
「いつ帰ったの? 」
「一時間ほど前だよ、よく眠っていたから起こさなかったんだ」
「ありがとう、で、今、何時? 」
「夕方の四時、ほんとによく眠ったね」
「いい匂いだわ」
「焼きめしを作ったんだ。ガーリックとさいころステーキをふんだんに入れたよ」
「美味しそう!」
「おいで」
彼が私に手を差し伸べた。

私は、裸の上にガウンを羽織っているだけの姿に気付いた。
立ち上がる時、胸と太腿が露になった。
彼は微笑んで、軽く私を抱き寄せ、私の胸と太腿に手を滑らせて来た。
私は、自然な身のこなしで彼の腕から逃れた。
恭介と寝た罪の意識がそうさせたのだった。

彼はゆったりとした部屋着だった。
居間のテーブルに私を誘った。すでに、焼き飯と玉葱のスープが用意されていた。
「凄くお腹が鳴ってるわ」
「たくさん食べてよ」
「ありがとう」
私は遠慮なくがつがつと、焼き飯を口に運んだ。

裕也は料理を作るのが好きだ。
カレールーもスパイスを組み合わせてゼロから作ったり、市場から獲れたての魚を調達して来たりする。焼き飯も上手で、米粒はぱさぱさと立っていて、いろいろな具を入れて作る。そのバリエーションは豊富だ。
「おいしい!!」
私は思わずそう言った。

ベランダに視線をやるとまだ明るい西の空が広がっていた。四月中旬の、少し霞がかった気怠い空だった。空を見ながら、私は脳裏でぶつぶつ呟いていた。

セックスレスだからと言って、セックスに飽きたからと言って、裕也が嫌いになったわけじゃない。昨夜から今朝の、恭介との出来事は、ほんの些細な、突発的で、一瞬の出来事とでしかない。私は恭介を愛したわけでもない。
だから、私は、裕也に、何も明かす必要がない、何も明かさない。永遠の秘密として、胸の内に閉じ込めておくのだ。

私が思いに耽っているのを知ったのだろう。
「何考えているの?」裕也が訊いてきた。
「何でもないの」私は素っ気なく言った。
「そうか」
裕也は言葉少なくそう答えただけだった。

私は久しぶりに、裕也の顔を意識して眺めた。
髪は少し長め。あまり手入れはせず、手櫛で整える程度。無骨だが優しい顔立ち。男気を感じさせる。一見、体育会系の強面だが、微笑むと人懐っこさが溢れ出る。

「おいしいわ、ほんと」
「ありがとう。ところで、そのおっぱい、色、艶、形が前より綺麗になったんじゃない? 」
彼がいきなり、エロイことを言い出した。
私は慌ててガウンの前を合わせた。
彼はニヤニヤして私が焼き飯を食べるのを見ていた。

見られながら、私は、恭介との関係が発覚したのか不安になった。
発覚するはずがない、発覚のしようがない、だって、今朝のことなんだから。
私は自分にそう言いかけせた。

私が焼き飯を食べ終わるのを見計らって言った。
「由希、見せたいものがあるんだ、ちょっと来てくれる」
彼はそう言って、寝室の横の、彼の書斎のパソコンの前に私を連れて行った。
なぜか不安になり胸の動悸が高まった。