女体の声/掌編小説集

鈴の音(03)疾走する女豹。女体を捕獲して男が襲う。r

2021/04/28

黒塗りのジープの後ろ座席から、鎖を付けた女豹を教授が引っ張り出した。
足先から指先まで、豹柄のボディースーツに被われた女体だった。
形の良い胸と流れるような胴体と力強い太腿の曲線が美しかった。
顔は目と口だけを開けたマスクに覆われ、赤い首輪に繋がれていた。

降りる時、オフロードバイクに跨って待機していた僕と視線が合った。
キラキラ光る挑発的な光があった。
僕は悩ましかった。その女豹は、僕が密かに愛する女だった。
教授の若い妻だった。

教授が首輪を外し

ゴー

と命令すると、女豹はアスリートのような逞しい四肢を駆使して、俊敏な動きで芒の草原に消えていった。
逃げ足は速かった。

広大な敷地だった。
空には夏の蒼穹が広がり、いくつかの雲が悠然と浮かんでいた。
微風の中で一面のすすきが揺れ、ところどころに立ちすくむ木々の葉群れが光を受けて輝いていた。

約十分程たつと教授が命令した。

よし、追え!

僕は指示に従って、オフロードバイクに教授を載せ、芒の草原を獲物を求めて迷走した。

サバンナのハンティングさながら、僕たちはその獲物を追いかけて捕獲しようというものだった。
芒は高く、人間を隠すにも十分だった。

僕は、土地勘に詳しい教授の指示に従って、バイクのハンドルを左右に切り、芒を掻き分け、木々の周囲を巡り、また疾走した。
獲物が芒の中を走れば、穂の波が揺れ、木陰を走れば、葉群れの輝きが乱れるはずだった。
敷地の東西を探索したが獲物の姿はなかった。

獲物にしても、この草原を知り尽くしていたのだろうか。
獲物の逃げる知恵と、教授の追いかける知恵の戦いのようでもあった。

いたぞ

教授が指さした方角の芒の穂波が揺れた。
僕はそれを目指してアクセルを開いた。
オフロードバイクは粘るようなエンジン音を響かせて猛然と疾走した。

芒の揺らぐ波が、疎らな木立の林の中へと逃げ込んだ。
それを追って、僕たちも林の中に突き進んだ。
木々の幹と根と灌木が僕たちの追跡を阻んだ。

あれだ

教授が言った。
女豹の黄金の流線型が前方の木の幹を回り込んだのだった。
僕はアクセルとハンドルワークで木の幹を狙った。
回り込もうとしたとき、至近距離に獲物がいた。
驚いた眼の光だった。
翻って背中を向けた時、教授がすかさず麻酔銃を発射した。

獲物は、撃たれながらも尚も走った。
僕たちは、前方の獲物を追いかけながら、麻酔が訊くのを悠然と待った。

その獲物は見事だった。
美しい背中だった。
美しい体幹だった。
美しい脚だった。

暫くすると獲物は麻酔が効いてきて、木の根元に崩れ落ちた。

仕留めたぞ

教授はそう言って、バイクから飛び降り獲物に駆け寄り、倒れている獲物を抱き起こし抱き締めた。
計算された麻酔の量だった。
体はぐったりしているが意識は失っていなかった。
しかし、目の光は美しく輝いているが、焦点は定まっていないようだった。

しなやかな腕を教授の首に回した。
教授に唇を寄せながら、美しい目が一瞬、僕を捉えた。
僕は、その視線と、ぐにゃりと崩れている女豹の体に欲情した。

教授は、女豹を抱き抱えながら、ボディースーツの前のジッパーを引き下ろした。
白亜の女体が弾むように現れた。

形のいい乳房
引き締まった胴体
臍の陰
恥丘
恥毛
太腿
見事な均整美だった。

教授が愛して止まない芸術作品のような女体だった。
そして、首から上のマスクを剥いだ。
豊かな髪がどっと流れてきた。
僕から離れ、宙をさ迷っている瞳。
つんと上を向いた鼻。
濡れて喘ぐ唇。
教授が、やはり愛して止まない美しい顔だった。

滑らかな首元には、僕が贈った小さな金の鈴があった。
鈴は切なげに小さく

リン リン リン

と鳴った。

僕のシャツの下の鈴もそれに答えて

リン リン リン 

と、共鳴した。

教授はそれには気付かず、うわ言の様に女豹の耳元に切なく呼び掛けていた。
それはまるで呪文の様だった。

愛してる お前は幻
愛してる お前は幻
愛してる お前は幻

そう呼び掛けながら、教授はもどかし気に野戦の迷彩色のズボンを引き下げた。
既に堅くなって反り返った蛇身が躍り出てきた。
女の両足を持ち上げ、大きく開かせ、光の中で輝く花唇に蛇の頭を押し付けた。

お前は俺のものだ

そう言って、教授は野獣のように唸りながら、麻酔にまどろんでいる女体の中に蛇身を沈めた。

その時、女の視線が再び僕を捉えた。
そしてまどろみの中で小さく呟いた。

あなた・・・

それは僕を呼んだのか、教授を呼んだのか、判然としなかった。