女体の声/掌編小説集

鈴の音(01)人妻の切ないアクメ声に震える可憐な金の鈴。r

2021/04/28

夫は美しい妻の、二十八歳の張りのある体を貫き、腰を振りながら乳房を揉み乳首を吸った
妻は快楽に歯を食いしばって、迸る喘ぎ声を抑えた。
それでも、くぐもった声が、妻の口元から漏れてきた。

妻の体に被さって蛇身を出し入れしながら、夫は、苦しげにも見える妻の顔を観察していた。
妻は美しい目を閉じ、眉をひそめ、夫の視線を避ける様に、横を向いていた。
抑えた喘ぎ声のために、喉元がひくひく上下し、腕を高く上げ、揉みしだかれている胸を反らしていた。

妻の胸元に、金の細いネックレスが纏わりついていた。その先に、米粒ほどのやはり金の小さな鈴があった。
今、夫の上下する腰の動きに揺さぶれながら、金色の鈴が微かに光り、そして微かな音を立て始めていた。

リン リン リン リン

微かな微かな音だった。
同時に小さな鈴は

チカ チカ チカ チカ

と、瞬き始めた。

快楽のせり上がりに必死な夫には、それは聞こえもせず、見えもしなかった。

どう? 気持ちいい?

夫は妻の耳元に顔を近づけて囁いた。

いいわ! とてもいい!

妻はそう答えていたが、閉じた目の中で、不倫相手の、自分より四歳ほど若い恋人の瞳を思い浮かべていた。
脳裏の中で、若い恋人が囁いていた。

どう? 気持ちいい?

妻は、夫の体に脚を絡ませながら、恋人に向かって答えていた。

いいわ! とてもいい!

妻の耳には、微かな鈴の音が切なく響いていた。

若い男は、ベッドの中で、自分の胸元の、小さな金色の鈴が、微かに、切なく、鳴るのを聞いていた。
そして、やはり、チカチカ光っていた。
遠く離れた女の小さな鈴と同期し同調し共鳴していたのだった。

アア
あの人が夫に抱かれている
あの美しい女体が燃え始めている

若い男は脳裏の中で、不倫相手の美しい女体が、夫の腕の中で、艶めかしく、激しく身を捻る光景を思い浮かべていた。
手が自然に下腹部に伸びた。手の中で股間の蛇身が身もだえし、熱く、太く、堅くなった。

小さな鈴は、若い男が都心の外れの雑貨屋で見つけたものだった。
「これは、スケベな鈴だよ」
中年の店員が説明した。

店員の説明によればこうだった。
二つの鈴は、小さいながら内部にセンサーと受発信機を内蔵していて、GPSを通じて交信し合う。
この鈴は付けている人間が性的に興奮すると、センサーが作動し、光り始め、電波を発信し、鳴り始める。
もう一方の鈴は、例え、東京とニューヨークに離れていても、作動した鈴の電波を受信し、同期し、同調し、鳴り始め、光り始める。

若い男は騙された積りでそれを買った。結構な値段だった。ひと月の給料の3倍ほどの値段だった。
鈴の一つを女の首に着けた。

その鈴は、見事にその機能を発揮した。
女が、夫に抱かれるたびに、小さな鈴は切なく鳴って、切なく瞬いた。

今、小さな鈴の鳴るリズムが速まって来ていた。
瞬きも速まっていた。

若い男の脳裏の中で、女がのたうっていた。
夫に、激しく体を折られ、捻られ、舌で貪られ、熱い掌で揉みしだかれ、そして貪欲に前後する蛇身に貫かれていた。

妻は夫に貫かれながら、快楽の頂上で絶叫を上げ、白目を剥き、体を痙攣させた。腰が勝手にビクンビクンと撥ねた。
妻の脳裏の中はすでに真っ白になっていて、自分がどこにいるのか、誰に抱かれているのか定かでなかった。

二つの鈴の音は急速に周波数を高めていった。
超音速に達するジェット機の、キーンというような高い周波数の金属音を発し、やがてその音は、人間の可聴域を超えて、宙の中に消えて行った。
チカチカ光っていた瞬きは停止し、鈴からは美しい朱の光が放たれ、そして消えた。

あの人がイッタ!

そう呟いた若い男の掌の中の蛇身は、消えた光を追うように、その先端から、熱い白濁の液を宙に放った。