遠い波の音で目が覚めた。
窓から曇った空が見えた。
昨夜のアルコールが少し残っているのか、微かに頭が重かった。
隣にはシーツにくるまった若い女がいた。
俺に背を向けて、流れるような黒髪が裸の肩に纏わりついていた。
ここがどこなのか、思い出すのに少し時間がかかった。
浜辺に近い飲み屋の二階だった。
昨夜ふらりと寄った飲み屋だった。
飾り気のない、静かな、流行っていなさそうな店だった。
派手なママと、大人しそうな若い娘がいた。
少なかった客が帰った後も、俺は一人でちびちび酒を飲んでいた。
酔いで朦朧とした俺にママが囁いた。
お客さん
この子どう?
明日までお付き合いするわ。
二万円で。
娘を見ると、長い髪の毛の下で、唇だけが赤かった。
清楚なかわいい娘だった。
口元で微笑んでいるが、目は俺を見据えていた。
挑むような、怯えているような、暗い光があった。
ママが続けて言った。
大丈夫よ
十八よ
もう大人だよ
名前は香織ちゃん。
結局俺は店の二階で香織を抱いたのだった。
シーツに包まれた体の線が、艶めかしく流れていた。
俺は、彼女の髪の毛の中にそっと顔を埋めた。
少し汗ばんでいた。
若草のような、青っぽい匂いが微かにあった。
シーツの中に手を伸ばし、後ろから掌で乳房を包んだ。
小振りで、未熟な膨らみだった。
その先の乳首は小さく硬くなっていた。
うーん
軽く呻いて、寝返りを打ち、体を俺に向けた。
顔は、髪の毛の中に埋もれていた。
赤い唇が覗いていた。
俺は、髪の毛を静かに掻き揚げて、顔を眺めた。
法的には、セックスしても罰せられない年齢だった。
しかし、眠っている顔は、まだあどけなかった。
微かな罪悪感があった。
閉じた瞼。
生意気そうな鼻先。
既に、男を誘惑することを覚えた、ずるそうな唇。
綺麗と言うよりも、可愛いいと言ったほうが良い顔立ちだった。
大人と子供がアンバランスに同居していた。
俺はシーツの中に潜り込み
左腕を枕にして彼女の頭をのせ
右手を腰に回して、体を抱き寄せた。
俺が失った青春の全てがそこにあった。
滑らかで、弾力に富み、はち切れる肌。
俺の腿に触れる、サワサワと騒ぐ陰毛。
無意識に絡ませてくる、腕と脚のしなやかさ。
俺にすれば贅沢極まりない肉体だった。
何よりも贅沢なのは、彼女の前に、茫洋とたゆたう時間の海だった。
青春という時間の海だった。
それは俺が、決定的に失ったものだった。
オジサン
彼女が目を閉じたまま、俺の耳元で囁いた。
おちんちんが堅くなってるよ
したいの?
そう言って、蛇身をそっと握って来た。
窓の外の潮騒がうるさかった。
曇り空に鴎が飛んでいた。