愛人契約

愛人契約97.エピローグr

2021/04/26

十一月が過ぎると、すぐに十二月になり、あっという間に年が変わり、時間が経ち、二月の終りになった。
日差しに春の気配が感じられた。

由香里は白色のセダンの後座席にいた。
運転するのは金城武で、助手席にはルーカスが座っていた。
今日、ルーカスが、六月にオープンするシティーホテルのオーナーを由香里に紹介するという事だった。
由香里はルーカスに、今まで書き溜めた絵やスケッチの画像を預けていた。
それを見て、オーナーが是非会いたいとのことだった。

「オーナーは、由香里さんの、あの巨大な中世風の塔の絵が非常に気に入ったみたいですよ」
ルーカスが言った。
「嬉しいわ、もうすぐ完成なんです」
「めまいがする絵だ、て言ってました」
実際その絵はもう完成間近だった。
傾いた巨大な塔は完成していた。
後は、上空の巨大な雲の、夕焼の細部を仕上げるだけだった。
「上手く行くといいですね」
運転しながら猛が言った。

ある街角に来た時だった。
「ちょっと止めてください」由香里が言った。
由香里は車から降りて、欅の林に囲まれた工事中の建物の前に立った。
それは紛れもなくあの秘密のマンションの跡地だった。
工事の案内看板に大きな文字が叫んでいた。

近々オープン!
日本一の激安の殿堂!

工事現場の囲いの中で、大型クレーン車が数台、鉄骨を空中高く吊り上げていた。
中からは騒然とした建設工事の音が響いていた。
あのマンションの影は一かけらもなかった。

いつか剛一が
由香里は幻だ
と言ったことを思い出した。

そして今、由香里も呟いた。
パパも幻だった。

愛人契約 完