愛人契約

愛人契約74.したたかな男の復讐劇。女は男の暴力性を怖れる。

2022/07/23

由香里の手による射精の後、剛一は暫く至福感を味わっていた。
午前七時を過ぎていた。
剛一がテレビを点けると、朝のニュース番組が始まっていた。
北朝鮮や韓国中国の動き、アメリアの動きが複雑さを増していた。
経済面では、企業の業種業態によって成長と衰退の二極化が進行していた。
地域のニュースになった時、剛一は思わずテレビに見入った。

ニュースはこうだった。
昨夜繁華街の近くの公園で、二人の男性が、玩具の手錠でベンチに繋がれているのが発見された。
発見されたとき、二人は全裸にされ、顔をひどく殴られ、鼻が潰されるなどの重傷を負っていた。
首から札がぶら下がっており、天誅、と書かれていた。
救急車が駆けつけ病院に運ばれたが、命に別状はない、とのことだった。
ただ、精神的動揺がひどく、うわ言を口走っていたという。
警察では事情聴取を行っているが、何も覚えていない、と繰り返すばかりで、事件の全容は不明だった。
テレビは、事件現場の早朝の公園を映すだけで、男たちの映像はなかった。

剛一の隣で由香里も画面に見入っていた。

その時、剛一のスマホが鳴った。
雁屋遼介からの電話だった。

「ニュース見たか」遼介が言った。
「今見ている」剛一が答えた。
「彼らは二度と由香里ちゃんの前に姿は現さない。あの繁華街にも近寄らない。警察には一切何もしゃべらない。襲った由香里ちゃんの名前や、以前アルバイトをしていた店の名前など、一切口にしない。それなりの脅しをかけたからね。」
「ありがとう」剛一が言った。
「また、会おう」
そう言って遼介が電話を切った。
二人の会話はいつものように短かった。

遼介の電話は由香里にも聞こえていた。
「遼ちゃん、やってくれたよ」剛一が呟いた。
「あの遼介さん?私のための復讐?」由香里が訊いた。
「そうだよ。」
「怖いわ。」由香里が言った。
「何が?」
「男たちのやることが。」
「熊谷とボーイが由香里に酷いことをしたからさ」
「分かるけど、パパや遼介さんも怖いわ。」
「なぜ」
「暴力的で残酷だから。」
剛一は暫く黙った後に言った。
「そうだね。男は暴力的で残酷なところがあるんだ。」

二人の間に暫く沈黙があった。

剛一が寝室のカーテンを開け放った。
ベランダから秋の朝の光が押し寄せた。

「由香里、新しい朝だ」
ベランダの向こうに都会の空が晴れ渡っていた。
「そうね、朝はいつも新しいわ」
「由香里も新しいよ」
剛一はそう言ってシーツの中の裸の由香里を抱きしめた。
そして剛一が言った。

「暫くは私からは電話を入れない。私に会いたくなったら由香里から電話を入れて欲しい。いいかい」
剛一が、レイプの後遺症でのペニスへの恐怖が和らぐまでの思いやりだった。
「いいわ、ありがとう」
由香里は小さな声で言った。

その朝、二人はタクシーに乗り、由香里は近くの駅で降り、剛一はそのまま会社へと向かった。

由香里の脳裏で、昨夜のレイプの場面がおぞましくよぎった。
私は新しくなれるのかしら?
由香里は、駅に向かいながら人混みの中で、そう呟いた。