由香里の体には砂浜での激しいセックスの余韻が残っていた。
足元に寄せる波の冷たさが心地よかった。
由香里は全裸で、その上にガウンを纏っているだけだった。
剛一は由香里の腰に手を回し、その体の重みを味わいながら砂浜をホテルのほうに向かった。
東の丘陵から夏の太陽の黄金の光が差し始めた。
東シナ海の表面は穏やかなさざ波に満ち、黄金の光を一斉に反射して輝いた。
ホテルの方から歩いて来る人影があった。
重い足取りに見えた。
ホテルのガウンを羽織った中年の外人だった。
「あれ、ルーカスさんよ」
由香里が言った。
近づいて来るルーカスはひどく疲れて、途方に暮れているようだった。
「ハイ ルーカス どうしました?」
剛一が呼びかけた。
潮風に金髪を乱しがらルーカスが答えた。
「あのクルーザーはどこへ行ったんだろう」
「知りません」
「あの猛はどこへ行ったんだろう」
「知りません」
「まるで夢のようだ?」
「昨夜、何があったんです?」剛一が言った。
「それはシークレットだ」
「オーケイ、ルーカス。後でレストランで会いましょう。猛を探しておきます」
ルーカスは呆けたかのように、クルーザーと猛の影を求めて砂浜の先を目指してよたよたと歩いて行った。
黄金の砂浜の光の中でその影はひどく揺らめいていた。
「何があったのかしら」
由香里が言った。
「猛の誘惑は強烈なんだよ。麻薬のようなゲイのプレイらしい」
「ちょっと怖いわ」
「絶頂の余韻の後、猛は姿を消すのさ」
剛一がニヤリと笑って言った。
剛一はルーカスと会う約束が成立した時点で、雁屋遼介を通じて、猛と出会い、ルーカスへの対処を打ち合わせた。
ルーカスがホテルに来たら、スペシャルな部屋に通すこと。
その部屋はVIP向けの豪華な部屋だが、リビングルームや寝室、トイレ、ベランダなど要所要所に隠しカメラがが備えられている。
高画質高解像度のそのカメラは鮮明な動画を残せるのだ。
その部屋で猛がルーカスを責めさいなみ、歓喜させ、絶頂に至らしめること。
さらにテクニックや小道具を使い依存症をもたらすほどの強烈な快楽を与えること。
それが作戦だった。
これは、桐野が属する帝国電器産業の一角が、ルーカスの属するヘッジファンドによって買収されるかどうかの企業間戦争の一環だった。
桐野は「作戦は任せてください」と、役員たちには言ったが、その内容までは明かさなかった。
剛一はがガウンの下に手を滑らせ、由香里の肉体を確かめた。
「フフ、くすぐったい」由香里が言った。
体には弾力があり、引き締まっていて、それでいて剛一の掌にしっとりとなじんだ。
由香里の体は、俺の毒かも知れん。剛一はそう思った。
「部屋に帰ってシャワーでも浴びよう」剛一が言った。
頷くように、由香里は体を剛一に押し付けた。
遠目には二人は似合いの洒落たカップルだった。