愛人契約

愛人契約71.今夜の隠れ家はエロスを閉ざして。

2022/07/23

医者でレイプの処置をした後、剛一と由香里はいつもの隠れ家のマンションに向かった。
病院が貸してくれた上下のジャージは、余計、由香里を痛々しく思わせた。

マンションの部屋に入ると、由香里はソファーに身を横たえた。
精神安定剤が効いたのか、病院を出た頃よりは少しリラックスしてきたようだった。
天井を見上げると、いつもの一面の鏡の中に由香里と剛一と部屋が映っていた。
由香里はレイプされた自分の姿を見たくなかった。また、剛一にも見せたくなかった。
「パパ、今夜は鏡を閉じて」
「そうだね、いいよ、閉じちゃおう」

剛一がリモコンで操作すると、天井の壁の両側から、引き戸になった板が現れてきて、天井全面の鏡を覆った。次いで、奥の浴室の壁面の鏡にも覆いがかかった。
浴室はいつもは透明なガラスの壁で仕切られているが、その壁も、やはり今夜は北欧調の扉で覆われた。
いつものエロティックな隠れ家は、今夜は単なる贅沢なだけの部屋となった。

剛一はソファーの上の由香里にかがみこんで軽く接吻した。
由香里は剛一の首に腕を回して応えた。

「私、シャワーを浴びてくる」
「一緒に入ろうか」剛一が優しく言った。
「嫌!!今日は嫌!! パパに体を見られたくないの」
強い拒否だった。
由香里は自分の体が、レイプで限りなく汚されたと感じていた。
「分かった、行っておいで」
剛一がそういうと、由香里は隣の閉ざされた浴室に入って行った。
暫くの間を置いて、シャワーの音が響いてきた。

ベランダから見る東京の夜景は、不夜城の光に満ち、蠱惑的に煌めいていた。
剛一はベランダに出て、何人かの会社の連中に電話を入れた。
同僚の専務や、部下のマーケティング担当部長に、昼間のプレゼンの結果や皆の評価等を確かめた。
「自社で人工衛星を打つ上げるかどうかは、後は、桐野局長の評価にかかっています。」
部長が言った。
「分かった、私は打ち上げに賛成だ」
「では、その旨で、プレゼンの事業化を進めます」
部長はそう言って電話を切った。

剛一は、次いで、雁屋遼介に電話を入れた。
「剛ちゃんか、先ほど、熊谷のお灸は終わったよ」
「そうか、早かったな。」
「俺のネットワークはパワーとスピードが売りだよ」
「どの程度のお灸だ」
「死にはしないが相当なものだ。もしかしたら、明日の朝のニュースに出るかもしれない。」
「警察の手がそっちへ伸びたりしないか?」
「完璧だ。プロがやったからな。それと、由香里のレイプを撮った動画はまだ投稿されていなかったよ。そのスマホは、車で轢き潰しどぶに捨てた。だから、安心して、と由香里ちゃんに伝えてくれ。」
「ありがとう」
「大切な由香里ちゃんのためだ。」
そう言って遼介は電話を切った。

由香里がシャワーを終わり、バスローブに身を包んで居間に戻ってきた。
剛一もベランダから引き上げ、居間に戻った。
レイプの後の残虐な記憶が残っているのだろう、由香里はバスローブの胸元が開かないように、きついぐらいに手で締め付けて閉ざしていた。