その日の午後、教授は女体にオイルを塗っていた。
ベランダの日陰の、シーツを敷いたソファーの上だった。
空には巨大な積乱雲が競りあがっていた。
女は全裸、教授はパンツをはいただけの姿だった。
女を仰向けにして、女体に跨り、乳房をオイルで優しくマッサージしていた。
何処で教わったのか知らないが、教授の指と掌の動きはプロの様だった。
僕は、教授の指示で、二人の姿をビデオに撮っていた。
水泳で鍛えた白亜の女体は、オイルを塗られ、光の中でぬめっていた。
僕は二人の動きに限りなく挑発されていた。
教授の掌の下で、乳房は揉まれると変形し、手が離れるとプルンと元の形に戻った。
張りのある、形のいい、アスリートの乳房だった。
胸元には金色の小さな鈴がチカチカ点滅して微かに鳴っていた。
僕の鈴が共鳴してチカチカ光って、やはり微かに鳴っていた。
女は掌の感触に声を上げながら、時折、僕の姿を目で追っていた。
教授の掌が腹部へと降りて行った。
臍を中心にして、指を伸ばして繊細にオイルを広げて行った。
腹部が、やはり快感のためか、ピクンピクンと撥ねた。
お前は幻だ
愛してるよ
お前は幻
教授はぶつぶつ呟きながら手を動かし続けた。
ある日、教授が僕に語ったことがある。
美しいものは必ず流れ去る、消え去るのだ。
いや、消え去るから美しいのだ。
夢と同じだ。
美しいものは、川の流れ、海の波、雲の漂いと同じだ。
生まれては、消え去り、また生まれて消え去る。
この一連の流れが美しいものを成り立たせている。
妻がそうだ。
美しい妻は一瞬一瞬に現れ、一瞬一瞬に消えてゆく。
失われた一瞬は消え去り、二度と戻ってはこない。
そしてまた、次の一瞬一瞬に新しい妻が現れてくる。
だから、俺は、その一瞬一瞬の美しさを掴んで残したいのだ。
その一つが、妻とのセックスだ。
セックスの快楽の頂点、オーガズムの瞬間に、俺は妻を掴んで、所有することが出来る。
その瞬間を、俺の体に、いや、脳に、刻み付けておきたいのだ。
しかし、目の前の美しい快楽は、美しい妻は、次の瞬間には消え去り、失われて行く。
脳の記憶は、美のかけらに過ぎない、曖昧な幻影に過ぎない。
教授は優しくマッサージしながら呪文のように呟き続けた。
お前は幻
お前を愛してるよ
呟きながら、手を股間へと降ろしていった。
恥丘にそよぐ恥毛を風の様に優しく撫でて行った。
パンツの中で、教授の蛇がのたうっていた。
女体のくねりを撮影している僕の蛇身も、ズボンの中で暴れ始めていた。
教授の語りは続いた。
美しさを留めるもう一つの手段が、ビデオに残すことだ。
日常の中の妻の仕草や姿態
そして交わった時の快楽に歪む顔と声
時には狂乱する姿
これらをビデオに収めるのだ。
しかし、ビデオの映像は美の死体だ。
臭いが無い。
体温が無い。
柔らかな肉の感触が無い。
生きてはいない。
幻影のかけらだ。
愛する美はやはりどこかへ消え去っているのだ。
教授が女の脚を開かせた。
女は素直に脚を開いた。
手入れされた恥毛の中で花唇がすでに濡れていた。
愛液が陽を受けてキラキラ輝いていた。
優しい指が花唇を開いた。
ピンク色した蜜口と、皮を被った肉芽が瑞々しかった。
教授はそこへオイルを塗って行った。
ヒ
女が呻いた。
切ない視線が、ビデオカメラのレンズを通して、僕を捉えた。
僕は、今すぐにでも彼女を抱いて接吻したかった。
胸元の鈴の瞬きが速くなっていた。
教授の掌の絶妙な動きの下で、女は腹部をぴくつかせたり、のけぞって乳房を突き上げたりした。
いやいやするように首を振り、両手を上げて教授を求めた。
しかし、教授はそれに応えず、ゆっくりとしたマッサージを繰り返した。