由香里がレイプの後遺症から立ち直れたのは、美希とのレズプレイのおかげだった。
美希の優しさと、優雅な愛撫、何よりもペニスバンドによるディルドがレイプの悪夢を解消させたのだった。
美希が沖縄へ帰ってから二、三日してから正輝に電話を掛けた。
会わなくなってから一ヶ月以上が経っていた。
彼から電話があっても会う気になれず、今まで放っておいたのだった。
窓からは気だるい秋の午後の光が差し込んでいた。
呼び出し音が続いていた。
長い時間の呼び出しだったので、由香里は一旦電話を切った。
目の前には描き掛けのキャンバスがあった。
あの巨大な建造物が天に競りあがっていた。
下の方に広がる広大な荒野らしき空間には夥しい数の、蟻のような人間たちが騒ぐように群れていた。
建造物の上空には巨大な雲の渦が巻いており、その渦の下部はま真っ赤に燃え上がっていた。
ヨーロッパの中世を思わせる構図と色使いだった。
完成まであとわずかだった。
長らく放っておいたため、正輝は他に恋人が出来たかもしれない。
由香里はそう思った。
正輝は爽やかな印象を与えるイケメンだ。
同じ美大生だったが、結構女の子に持てていて、由香里と出会うまでは、そのうちの何人かとは常時セックスをしていたようだ。
そんな正輝に恋人が出来ていてもおかしくなかった。
正輝は若く、性欲も強い。
いつも私をガツガツ求めてくる。
私とはここしばらくしていない。
新しい恋人とセックスしたのかしら?
それともオナニーで処理したのか?
しかし、由香里は深く追求しなかった。
絵筆を握ろうとしたときスマホが鳴った。
正輝だった。
「どうした、由香里、何かあったのか?」
「何かって?」
「だってお前から電話かかって来るなんて滅多に無いだろう。それに、ここしばらく俺が電話しても出てもくれなかったし」
「ごめんね。今日、会いたいの」
正輝の暫くの沈黙があった。
気になる沈黙だった。
「駄目?」
由香里には珍しく、どことなく哀願するような口調だった。
「いいよ」
正輝はそう言って、かつて行ったこと事があるカフェと時間を指定した。
由香里は、正輝と会う約束に、自分が今でもときめいているのが嬉しかった。