愛人契約

愛人契約12.逢引はエロティックな隠れ家でr

2021/04/26

桐野剛一は蒼井由香里と愛人契約を結んだ後すぐ、雁屋遼介に隠れ家用のマンションの手配を依頼した。

遼介の幅広いネットワークを使えば、希望する不動産情報はほぼ間違いなく得られるのだった。
静かな街並み。
洒落ていること。
住人や隣人と顔を合わさなくて済むような作りであること。
日当たり、見渡しが良いこと。
リビングとベランダ、浴室、洗面所が広いこと。
車でも、電車でも行きやすい立地。
それが条件だった。

剛一は遼介が提示したマンションを下見した。
申し分なかった。
最寄りの駅から徒歩約10分。
閑静な街並みの中に、そのマンションはひっそりと佇んでいた。
八月の強い日差しの中で白亜に輝き、欅林の濃い緑に囲まれていた。
その部屋は、或る中堅企業の社長が所有していたもので、経営不振のため手放さぜるを得なくなったということだった。

5LDKの間取りで、調度類や金具類は、前の所有者趣味なのだろう、アールヌーボー調で気品に満ち豪奢に仕上げられていた。
リビングは広く、ベランダに面する壁はガラス張りで都会の空が見渡せた。
左側の仕切りは可動式で、その仕切りを開くと、寝室で大きなダブルベッドが備わっていた。
寝室もベランダに面して、都会の空が展望できた。
寝室の突き当りの仕切りを開けると、ガラス張りの浴室が見える。

その浴室はひときわ大きく、さながら小さなプールともいえる広さだった。
湯ぶねは大きなガラスの水槽で、中にいる人間が大きな金魚のように丸見えとなる作りである。
浴室からもベランダの向こうの都会の空が見渡せた。

驚きはリビングや寝室、浴室の天井と壁に大きな鏡が張っていることだった。
天井と壁の鏡の効果は強烈である。
リビングで寛ぐ時、寝室で横たわるとき、浴室で体を洗う時、すべての立ち居振る舞いが、そして体のほとんどの部位が、鏡の中にすべて晒されることになる。

剛一はこの部屋を下見しながら、由香里の裸体が天井や壁の大鏡に映るのを想像した。
リビングで寛ぐ裸体。
寝室で寝がえりをうつ裸体。
ガラス張りの浴室で秘部を洗う裸体。
透けて見える浴槽の中で、美しい脚を伸ばしている裸体。
剛一の蛇が身をよじるようだった。
この豪華で気品があってそしてエロティックなマンションに剛一は即座にOKを出した。
ただし、賃貸料はそこそこだった。