愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき33.後から土砂崩れ、前方には敵の車、前面突破あるのみ!

さすが防弾車アーマード・レクサスだった。
アーマードと呼ばれるだけあって、隣のランドクルーザーの爆発と高温の炎と衝撃にも何の影響も受けていなかった。
単なる防弾車ではなく、紳士面した屈強な兵器、装甲車だった。

俺は再び高野山を目指してレクサスを走らせた。
市街地の外れに来ると、白いワンボックスカーとパトカーの追跡を逃れるため、主要道路を外れ、脇道に入った。
脇道は林道へと繋がり細くくねった道が続いた。
レクサスの高性能なカーナビでもルートは単に細い線が表示されるだけで、道幅やルート表示は示されなかった。
俺はおおよその位置から判断して、林道の分岐点を西へと西へと向かった。やがては国道四八〇号線に出るはずである。

どれくらいの時間を走っただろうか。林道から村落に出てまた林道へと入った。
フロントガラスに雨がぱらついた。
「雨だわ」
隣の凜が言った。
その言葉に続いて、一気に驟雨が襲った。
俺はワイパーを全開にした。雨はフロントガラスを滝のように流れた。

初めての道で、狭く、両側から灌木の葉群れが被さり、道は舗装されておらず凹凸に富み、すぐ左は小さな沢で、豪雨のため見通しは効かず、踏み外すと川へ転落するのだ。
俺は運転に神経を集中させた。隣を見ると凜も前方に神経を集中させていた。
凜の緊張した横顔が知的で美しかた。

ルームミラーで後を見るとブルドッグは蘭の頭を抱き寄せ片手で蘭の胸を揉んでいた。
本当に性欲の強い奴だと感心しながら、俺は苦笑した。
緑川と彩夏は肩を寄せ合い、窓の外を不安げに見詰めていた。

「あれを見て」
隣の凜が前方目で指して言った。
この林道が終わる先で少し広い府道に突き当たる予定だった。
その交差点に白い車の影があった。
フロントガラスを流れる雨の膜でその影は歪んでいたが、俺たちを追尾しているワゴン車だった。
俺は約五〇メートル手前でレクサスを止めた。
凜が俺を見て言った。
「どうするの?」
「わからん」
俺はぶっきらぼうに言った。

奴らは先ほど、大胆にもショッピングモールの駐車場で緑川ののランドクルーザーを爆破したのだ。
相当手荒な行為も辞さないというデモンストレーションだった。
今、その白い車は、俺たちの前で悠然と待機し、静かに威嚇している。
雨は本ぶりのままだ。

その時だった。
背後から不気味な地鳴りが聴こえてきた。俺と凜は思わず見詰めあった。
まさか?
二人の思いは同じだった。
土砂崩れ?
土石流?
振り向いたが後の窓ガラスは曇っていて視野は塞がれていた。
ブルドッグが吠えた。
「土砂崩れの音だ!ダッシュだ!脱出だ!」
「しかし!」
と俺は叫んだ。
「前方にあの車がいる!」

「余裕はない!」ブルドッグが叫んだ。
「全面突破!」凜が強い口調で叫んだ。いや、命じた、という方が正しかった。
「分かった、行くぞ!」
俺はアクセルを踏んだ。
あのランドクルーザーの爆風にも悠然としていたアーマード・レクサスだ。あの前方のワゴン車など、余裕で蹴散らすはずだ。
俺はそう信じて、クラクションを最大限に慣らして、最大限にアクセルを踏んで突進した。

-愛人もどき。危険な女二人。