八月の早朝。午前四時。
俺は眠気を我慢してタクシーを運転していた。客を届けての帰り、都市部の外れ、闇の中に寂れた街並みが続いている。行き交う車も人影もなく、単調な狭い道が続く。腹が減っていた。どこかで牛丼でも食いたかった。
街灯の青白い光の中に二人の人影があった。若い女性が二人、手を振っている。
一人は豊かな長い髪で、ワンピースの短いスカートから白い足がなまめかしく突き出ている。
もう一人はショートカットで、黒いズボンに白いブラウス姿。少年のようにも見えるが胸のふくらみから女だと分かる。
俺は二人の前で車を停めた。
条件反射的に客を乗せる動作で、後部座席のドアを開けた。二人の女は飛び込むように乗り込んできた。
髪の長い女が先に乗り、後からキャリーバッグを持ったショートカットが続く。
「どちらまで?」
訊くと長い髪の女が、ここから少し距離のある街の名前を言った。
俺が帰る方向でもある。
ドアを閉め、アクセルを踏んだ。
しばらく走ってから、ショートカットの女が言った。
「松岡さん、三十七歳なんだ」
女は、表示が義務付けられている運転席の社員証を見て、俺の名を呼んだ。
「はい、もうすぐ四十です」俺は答えた。
「夜遅くまで頑張って、奥さん幸せでしょう」女が訊いてくる。
「いや、今は独身です」
妻とは1年程前に分かれている。
「そうなの、寂しいわね」長い髪の女が言った。
「いえ、結構楽しくやってます」
「私たち疲れてるのでちょっと眠るね。街に着いたら起こして」
とショートカットの女。
こちらも疲れていたので、会話せずに済んだことが嬉しい。
「はい」と答えると、彼女たちはそのまま沈黙した。
バックミラーで後部座席を確認すると、二人は恋人たちのように抱き合って眠りに入っている。
寂れた街を過ぎ、少しは賑わいだ街が見えてきた。東の空が明るみ始めている。
一時間ほど走っただろうか。後部座席を振り向くと二人は顔を寄せ合って眠り続けている。
二人とも美人だ。
長い髪の女は情熱的で蠱惑的、ショートカットの女は知的で清楚だ。
しばらくすると人気のない公園が見えて来た。俺は公園の端に車を停める。八月の夜が明けようとしていて、空はプラチナ色に輝き始めている。
開閉レバーを引いて後のドアを開けた。
「お客さん街につきましたけど」と声をかけて後の座席を覗き込んだ。返事は無い。二人ともよく眠っている。
「お客さんつきましたよ。ここからどこへ行きますか?」
もう一度声をかける。
時々客が泥酔して、行き先がわからず処置に困ることがある。決して、客の体に触れてはならない。ましてや、相手が女性ならなおさらだ。そんな場合は、最寄りの交番や警察に駆け込み、処置を任せるのがルールだ。
美しい彼女たちの体に少しでも触れてはならない、とに自分に言い聞かせ、車を降り、後ろに回り、ドアを開け、首を車内に突っ込んでもう一度声をかける。
「お客さん……」
その時、奥にいた長い髪の女が俺の首に手を回し、思い切り自分に引き寄せ、接吻してきた。
そして舌を差し入れて来る。
唇を離して女が言った。
「お金は体で払いたいの」
「そんな……」
拒否しようとすると女は再び俺の唇を強く吸った。
俺は倒れこむ形になり、下になったショートカットの女が、ズボンを脱がしにかかった。
「なにするんだ、ヤメローッ!」
と言ったが口は女の舌に塞がれて声にならない。ペニスの先がヌルっとして冷たいものに絡まれた。ショートカットの女が俺を咥えこんだのだ。本能というより、肉体の機構としてペニスが硬直し、瞬間湯沸かし器のように血液が沸騰した。
二人の女に引きずり込まれた俺は開き直った。
タクシーの後部座席は体位の工夫によっては結構広くとれるものだ。なるようになれという気合で長い髪の女の胸を揉んだ。
柔らかで弾力ある胸だ。女は自分から前のボタンを外し、ブラを引き下げ、乳房を剥き出した。曙光の中でぼんやりと浮き出る乳房は豊かで、内部から光を放っている。
俺は迷わずその先端の乳首を吸った。
女は「ああ~ん……」と甘い声を上げた。
俺の下ではショートカットの女が濃厚なフェラを始めた。亀頭からペニスの付け根まで、滑らかな唇と舌を上下させる。そこへ指が絡まり、絶妙にペニスを締めつけてしごき始める。
ペニスは溶けるような口の中で極限にまで怒張する。急速に噴出の兆しが襲う。ペニスが快楽にのたうつ。ついに俺は叫ぶ。
「出すぞーっ」
怒鳴るように言って口の中でペニスを前後させる。熱いマグマが体の奥底から奔流となって湧き上がってくる。
次の瞬間、俺は下の女の口内に快楽の飛沫を噴き出した。自分でも驚くほどの量だ。ペニスはドクンドクンと何度もザーメンを噴出し、その度に激しい快楽が全身を貫く。下の女は、むせながら白濁の液を呑み込んだ。
快楽を放出し終わって、長い髪の胸に倒れこんだ。
ふくよかな乳房が癒すように俺を受け止めた。
下の女が背中によじ登って来た。俺は二人の肉に挟まれた、まるで快楽のサンドイッチだ。
「良かった?」
長い髪の女が俺の頭を撫でながら言う。情熱的で潤んだ瞳が見つめている。
「良かったよ」
答えると、背中に乗ったショートカットの女が俺の首に抱きつきながら「私も良かったわ」と小さな声で言い、覗き込んでくる。
小さめの唇が可愛いく、瞳は悪戯っ子のように輝いている。
「こいつら何者だ!」
俺は快楽の余韻を感じながら脳裏で叫んだ。
八月の早朝の光がタクシーの中に溢れ始めていた。