愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき64 女二人、黄金虫型ロボットを捕獲。

林道に乗り上げてからブルドッグは少し広くなった路肩にレクサスを停めた。
ジープもレクサスの後ろに停まった。
俺たち全員は外に出て、レクサスとジープの状態をチェックした。

レクサスの優雅で強健なフロント部分は銃弾の痛々しい傷が無数に走っていた。しかし、致命的な損傷はなかった。
その代わり、フロントのバンパーから下、前輪のタイヤ辺りは凄まじい銃撃を受けて無残な姿に変貌していた。
バンパーはズタズタになり、鋼板がめくれ上がり、タイヤ部分が剥き出しになっていた。
右のタイヤは銃撃に耐えてパンクはしていなかったが、いくつかの深い傷を負っていた。
左のタイヤは見事に失われ、特殊合金のホイールが野獣の骨のように露出していた。川底から岸へ上がる途中の泥がこびり付いており、リムの外縁は石を噛み少し変形していた。

「リムだけでも走れるって言ってたな」ブルドッグが言った。
「そうよ」蘭が言った。
「目的地まで何とか持てばいいが」俺は少し不安げに言った。
「ジープは意外と傷が浅い」緑川が言った。
緑川が確かめたところ、背後のワンボックスカーからの銃撃はほとんどが路面を弾くもので、車体に損傷は与えなかったようだ。
川を渡る場面でも、車高の高い車輪のため、ボディーの底にも傷はついていなかった。

「奴らは、レクサスの走行能力の破壊が目的だったのかしら」蘭が言った。
「そうかもね」凜が言った。
「ところで・・・」俺が言った。
「奴らはどうやって俺たちの位置情報を得ていたんだ。ドローンはやっつけたはずだぞ」
「そうなの、今それを考えていたのよ」凜が応じた。

そんな話を聞きながら彩夏がテキパキとレクサスのあちこちを点検していた。
「後のジープから見えたんだけど、あのドローンがレクサスを撃って来た時、何かが落ちてきたような気がしたの。銃弾の薬莢にも見えたけどはっきりはしなかった」
そう言って、彩夏はドアに脚を掛け、背伸びしてレクサスの屋根をチェックした。
「変なものが付いてるわ。気持ち悪い」
「どれ」
彩夏に代わって俺が屋根の変なものを確かめた。
それは小さな昆虫のようだった。
大きさは約二センチ程度。全体は丸みを帯びた、いびつなおむすびの様で、派手な金属質の緑色をしていた。
「黄金虫だ」
俺はそう言って、それに手を伸ばした。
するとその黄金虫はそろそろと無数の出っ張りの脚のようなものを動かして移動した。力ずくでそれを握ると、バラバラと十個ほどの部品に分裂した。様々な形をしたその部品たちは、めいめいが四方へ逃げだした。
俺はとっさにシャツを脱ぎ、それらの部品の上に覆い被せて一気に捕獲した。
俺がシャツの中でもぞもぞ動くそれらを、そーっと皆に見せた。
それを見た凜が
「蘭、アルミホールを持って来て!!」と素早く言った。
蘭が車の中から、セルを包んだ時のあのアルミホイールを持ち出して来た。凜はすかさずその部品たちをアルミホイールで何重にも包んだ。

凜が、そのうちの一つを摘まみ上げて言った。
「これは、あのセル型ロボットの一種よ」
その部品は、黄金虫色に光る羽の一部だった。裏返すと幾筋もの配線のような模様の中で、針先のような極小のインジケーターがオレンジ色に点滅していた。
「この部品たちが合体して、黄金虫の形を形成しているのよ。そして、そいつは、きっと、GPSに位置情報を発信していたんだわ」凜が言った。
「だけど、セル型ロボットはまだ研究途中じゃなかったのか?」俺が訊いた。
「劉博士は、ごく原始的なロボットは開発が終わって、運転試験中だとも言ってたわ。」凜が言った。
「じや、この黄金虫は試験中のものか?」
「断言は出来ないわ」凜が言った。
「いずれにしろ、奴らは、ドローンが無くてもこの黄金虫からのGPSの信号で、俺たちを追跡出来たんだ」
緑川が言った。

セル型ロボットの部品の群れは、アルミ箔にに包まれたため、今や電磁波を封鎖され、GPSとの通信は遮断された。

「よし、これで俺たちは心置きなく目的地へ向かえる。時間を食ったな。行くぞ」
ブルドッグが言った。
時間を確かめると十三時を少し回った所だった。

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