愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき43 破邪食の行。宇宙の恵みを食し、性の絶頂で宇宙と融合すること

大日如来を中心とした立体曼荼羅は間接照明で柔らかくライトアップされていたが、講堂全体は薄暗かった。
やがて、薄暗い空間に声明と木魚の音が静かに厳かに流れ始めた。
男達と女達は大日如来の前で、左右に分かれて座っていた。男たちは大日如来の方から、俺、浮田、緑川の順で、女達は、大日如来の方から、蘭、凜、彩夏、真矢の順だった。

「皆さん、これから破邪食の行をはじめます。」
いつの間にか、藤さんが俺たちの右手に正座していた。
見ると、鮮やかな緋色の半透明の袈裟であった。袈裟の下で、熟した女体が発光していた。豊かな乳房、インド神話に出てくるような豊饒な腰と太い腿。そして漆黒の陰毛。
神妙な美魔女。
俺はそう思った。

「犬阿闍梨アジャリ様のご登壇です」
藤さんがそう言うと、上手から金色の半透明の袈裟を着たブルドッグが現れ、大日如来を背にして、俺たちに向かって結跏趺坐ケッカフザした。
「ブルドッグはここでは犬阿闍梨イヌアジャリとよばれているのか」俺は脳裏で呟いた。

あの滝の樹上で読経した時の金箔は洗い落され、少し上気した肌が艶やかだった。半眼になり、声明ショウミョウに唱和して読経を始めた。すぐ近くに聴くブルドッグ、犬阿闍梨の声明は、深く、悠然と、神妙で深遠な響きだった。

「これから出て来ます当寺の秘密の食事を堪能してください。この堪能こそ、当寺の修行なのです。そして、席次と男女の組み合わせは、私どもが決めさせて頂きます。まず、料理をお出しします。」

そう言い終わると、白の法衣を着た女性が、荘厳な脚の低い食卓を押してきた。
俺たちは、その食卓とそこに盛られた秘密の料理に驚きの声を上げた。

食卓は天を這う黄金の龍を象っていた。
頭部を大日如来と犬阿闍梨に向け、銀色の眼球から慈悲の光を放っていた。開いた口からは金色の舌が覗き、鼻の先の髭が宙を舞い、黄金の鱗に包まれた胴体がくねり、尻尾が空中で雨を持たらす祈りを上げるかのように天を仰いでいた。
背中には美しい金色の小舟が載せられていた。

金色の小舟の中には、二十歳に満たない全裸の女が仰向けに横たわっていた。

「彼女の名前は曼珠子マンジュシと言います。今、当寺の薬草の力で深い眠りに入っています。」
藤さんが言った。

曼珠子は孔雀の羽のようなマスクで目を覆っていたが、その艶やかな顔は半ば童女のようにあどけなく無辜の輝きがあった。黒髪は水に流れる藻のようにたゆたい、ツンと上を向いた鼻は気品があった。曼珠子は深い眠りの中を漂い、胸が呼吸と共に静かに上下していた。

そして、曼珠子の裸体の上には豊饒な食材が盛られていた。肉体を傷めないためか、冷温の食材がほとんどだった。数々の魚種の刺身や、貝類、ローストビーフや、チーズ、寿司、野菜類などなどである。
寺には似つかわしくない、多国籍的なアソートだった。

食材の隙間から覗かれる、曼珠子の身体は伸びやかで、形のいい未熟な乳房には命が漲り、引き締まった腹部から腰への曲線はしなやかで、太腿は躍動感に溢れていた。
ぴったりと合わされ閉じられた太腿の付け根には海藻類が盛られていたが、恥丘が微かに盛り上がっており、薄い陰毛をとおして若い割れ目が覗いていた。
そして、伸びやかな裸体の周りには、醤油、ワサビ、オリーブオイル、等々の調味類が入った小皿も並んでいた。

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