愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき69 明かされた驚愕の真実。凜の怒りの鉄拳が飛ぶ。

閃光弾の音が止んだ。
静けさの中で気が付くと、雨具を着けた野戦服の男が凜の側に立っていた。濃いサングラスを掛けていた。
あの閃光弾から眼を守るためのサングラスだと思われた。

「椎名所長!!」
「そうだ、椎名だ。凜、よく頑張った」
優しく厳しい、思慮深い目で凜を見つめて続けて言った。
「今までのは全てテストだったんだ」
「テスト??」

凜は驚愕した。
その瞳がぎらぎらと椎名を睨んでいた。一瞬何かを考えるような表情を浮かべた。
そして言った。
「何か変だとは思ってました。あの男たちは私たちの体は攻撃してこなかった。だから、今回の白兵戦も体は撃ってこないとは思ってました。」
「ばれてたか?」
「でもテストとは思ってみませんでした。」

凜は、怒りに唇を震わせながら続けた。
「あの土石流の分岐点と、川越の直前の攻撃の前にみた影はやはり所長だったんですね。その時から変だとは思ってました。」
「そう、君たちの働きぶりを追跡していたんだ」
「でも、あの男は蘭を撃ったわ。許せない!!」
凜は漁船の男を指さしながら、大声で泣き叫ぶように言った。目には涙が溢れ、声はかすれていた。
「死んではいないよ」椎名が優しく言った。

蘭の方を見ると、蘭が恐る恐る立ち上がるところだった。背中から赤い色の液体の筋が流れていた。
立ち上がった蘭は、自分自身が信じられないと言った表情で、その赤い液体を手に取って、呆然と見つめていた。
ブルドッグも不思議そうなに蘭の側に立ち上がった。

「らーん!!」
凜は蘭の側に駆け寄って蘭を抱き締めた。
追って来た椎名が言った。
「演習用の塗料だ。食べても毒にはならない」
「何のテストだったのですか?」
凜の声はまだ怒っていた。
「幾つものテストだよ」

テストの主な項目はこうだった。
一.凜と蘭のハニートラッパとしての能力テスト。
二.装甲レクサスの能力テスト。
三.簡易型ドローンの運用テスト
四.奪った、基本セルのGPS通信能力テスト。
五.昆虫型セル型ロボットの動作テスト。
六.追跡チームの連携と銃撃の精度テスト。
七.潜水艦の運緊急時運用テスト。

凜は呆れて聞いていた。
「じゃ、私たちは、テスト用のセルを、ハニートラッパーの資質を試されながら、必死で奪って、必死で逃げていたのですか?」
「悪いがそうだった」
「じゃ、あの蘭を撃った男は何者?」
「彼は、我々の友人だ。応援を頼んだ」
椎名が男を手招いた。

男が漁船から上がって俺たちに近づいて来た。
男がサングラスを外した。
精悍な、GIカットの男だった。
「雁屋遼介です」男が名乗った。

「あなたがカリヤ?」
凜が驚いたように言った。俺も凜に劣らず驚いた。
端正で凄みのある風貌だ。

凜が雁屋に言った。
「テストで、蘭を撃って、私たちをひるませたの?」
「済まなかった。」
次の瞬間、凜の目が激しく燃え上がり、全身の体重と力を集中して固めた拳で男の顔面を殴りつけた。
俺にはそれがプロの打撃法に見えた。

ゲッツ
拳が顔を叩く音と、雁屋の呻きが混じった。

「これで許してあげるわ。」凜が睨みつけて言った。
「ありがとう」雁屋はすまなそうに微笑した。

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