私たちが居間に入ると、美帆さんが言った。。
「由希さんはこちらへ来て」
そう言って、居間の隣にある寝室に私を誘った。
私の知っている寝室だ。
右側の居間との間は透明なガラスの壁になっている。左には、やはり透明なガラスの壁で仕切られた、大きな浴室が透かして見える。
美帆さんは、ベッドの足元の隅にある大きなクローゼットから衣類を取り出した。
美帆さんは、悪戯っぽい笑みを浮かべて言った。
「質問は無し。由希さんはこれを着て」
そう言って差し出したのが、爽やかな明るい空色の生地に金の刺繍が入った、シースルーの大きな縦長の布だった。そして、幾重ものフリルの襞が縦に走っていた。触ってみると絹の滑らかさが指の上を滑った。
「古代のギリシャ人が着ていたキトンをアレンジしたもの、モダン・キトンよ」
と、簡単に説明した。
極めてシンプルな造りで、長い布を半分に折って、折り目の真ん中に穴が開いている。
その穴に頭を通しすだけのものだ。
「スーツも下着も、着てるもの全部脱ぐのよ」
「え」
「私はこの色のキトンを着るわ。着方を見ていてね」
そう言うと、美帆さんは今着ている華やかなブラウスやパンツを、そして下着全部をするすると脱いで全裸になった。
美しいプロポーションだった。激しい、世界の一線で勝ち抜いてきた体だった。
均整がとれ、肌は艶やかで、しなやかだった。
その見とれる体に、白色の生地に金の刺繍が入った、シースルーの絹のキトンを纏った。
丈は膝頭辺りまでだった。布は前と後ろだけを隠す格好になり、細いひもで腰のあたりをくくった。
横から見ると、乳房の横の膨らみと腰、臀部太腿など体の横のラインが覗けた。
前から観ると、形に良い乳房の輪郭と乳首、臍のくぼみ、そして、恥丘のヘアーと、太腿が怪しく、絹の襞の重なりの下で息づいていた。
「イタリアで見つけたものよ。セクシーで品があるでしょう」
そう言って妖艶な笑みを浮かべた。
私は会社帰りで、紺のスーツと白いブラウス姿だった。
美帆さんは私の肩に手をかけると、手際よく服を脱がせて、それらを手際よくクローゼットの中に仕舞い込んだ。そして、金の刺繍が入った、薄絹の爽やかな空色のキトンを、私の頭にかぶせて首を突き出させた。
体の前と後ろだけが覆われて、横はほとんど露出していた。
腰ひもで括るため、前と後ろの絹の布は舞い上がらないように一応は固定されるが、体の動きによっては全裸に近いほど露出されそうだった。
美帆さんは、鏡張りの壁に私を向かせた。
私は、私古代のギリシャ人となって、キトンを纏い、シースルーの絹が重なった豊かな襞の奥に、体の線を浮かび上がっていた。ブラもパンティーもつけず、乳房と乳首、そして影のような股間の絨毛が、うっすらと見え隠れしていた。
そして、私の横には、スーパーモデルの、毅然とした美帆さんの、半裸のキトン姿があった。
「由希さん、素敵よ。モデルにもなれる体よ」
美帆さんが言った。
私が、そのシースルーのキトンにたじろいでいるのを見て言った。
「もじもじと、体を隠してはダメよ。堂々と胸を張って歩くのよ。あなたは綺麗よ」
ガラス越しに居間を見ると、恭介と裕也も、白地の布を片側の肩に吊るすようにして、体に巻き付けていた。
やはり、丈は膝頭辺りまでで、素材は半透明な絹のよう、片方の肩が露出していた。
「あれも現代型キトンよ。男性用はデザインが少し違うの。一方の肩が出ていているでしょう」
と、美帆さんが説明した。
私は、何が起こるのか、不安そうな表情を浮かべていたに違いない。
美帆さんが言った。
「今夜はスワッピング・パーティーよ」
「え」
「聞いてないの?」
「何の事? 」
「夫婦交換よ」
それはまるで宣言でもするような語調だった。