「信じて欲しい、俺はお前を愛している。愛しているから、こんなことをしたんだ」
裕也はそう言って、私の顔を両手で挟み、唇を近づけてきた。
私はイヤイヤをして、彼の唇を避けた。
しかし、彼の掌の力は強く、私の動きを封じ込め、舌で私の唇をこじ開けた。
遂に私は彼の侵入を許した。
熱い舌はまるで第二の蛇のように、私の口の中で動き回り、私の舌を追い求め、絡み取り、纏わりついた。そして、私の舌を吸い上げ、唾を啜った。続いて、彼は自分の唾液を私の中に送り込んできた。熱くぬめった液体が口の中を満たし、私はそれを飲み込んだ。
唇を離し、私をじーっと見詰めて言った。
「愛してるよ、由希。由希の全てを愛してる」
私は裕也の視線を避け、胸に顔を埋めて、顔を隠して言った。
「私は恭介と寝たわ。彼に抱かれて、彼を受け入れたわ」
「分かっている。説明するよ」
そう言って彼は語った。
ほぼひと月ほど前だろうか?
俺は研究室でコンピューターでマイクロロボットを千個同時に動かしていた。一定の命令で、そのロボット群が特定の形を取るプロトコルを開発しているところだった。
モニターの中で、ロボット群は犬の形を構成した。そして、時速にして六十キロメートルの速度で、モニターの中の市街地を疾走した。
市街地には、人間や車が行き交い、辻があり、ポストが有ったりするが、その群体による犬は、それらを認識し、避け、回避し、疾走し続けた。プログラムはほぼ成功間違い無しだった。
成功の予感にほっとしていたところへ、恭介から電話があった。
久しぶりに軽く飲まないか? という誘いに俺は直ぐに乗った。
お前も知っているあのショットバーだ。俺と恭介はカウンターのバーに並んでグラスを合わせた。
七十年代のモダンジャズが流れていた。俺たちはサーモンやベーコンの缶詰を肴にして飲んだ。
話が、互いの性生活の話題になった。
俺はここ半年ほど、お前とセックスていないことを告白した。
「もったいない、あの由希さんを抱かないなんて。俺のプロダクションや、彼女の会社でも、由希さんは男たちの垂涎の的なんだぞ。男なら誰でも一度はあのナイスバディーを抱きたいと思っているんだ、それに知的な美しさもある」
「夫婦となれば別だ」
「飽きた?」
「分からん、彼女に起たないんだ。けだるく、面倒くさく、やる気が起こらないんだ」
恭介は暫く考えた後に言った。
「美帆を抱いてみないか?」
あまりにも突飛な提案に、俺はそれこそ声を失った。
「美帆は、俺が言うのもなんだが、いい体をしているよ。モデルをやっているから、体は入念にケアしている。エアロビクスなんかもやってるよ」
「それに、感性も豊かそうだ」
「そうなんだ、ヒップホップなどのセンスも抜群だ。クラッシック音楽も好きかな?」
「なぜ、そんな美帆さんを俺に抱かせる?」
「交換条件がある」
「?」
「俺には由希さんを抱かせてほしい。おれはずっと前から由希さんが気になっていた」
「お前なー」
俺は彼を咎めようとして、言い淀み、次の繋ぐ言葉を探した。
しかし、出てきた言葉は自分でもびっくりするものだった。
「分かった、美帆さんを抱かせてくれ。お前は由希を抱いても良い」
そう答えた時、感動にも似た情欲が体中を駆け巡った。
裕也は語り終えて、私をジーッと見詰めた。
「由希、お前の全てを愛しているんだ、恭介に晒した、恭介が触れた、そんなお前の全てが好きだ」