愛人契約

愛人契約93.午後の光の中で、愛人契約を解除。r

2021/04/26

朝の交わりの後、二人は再びベッドに潜り込んだ。

愛すること以外、何もしない時間。
剛一はこの時間の贅沢さを感じていた。

由香里を腕に抱きながら、剛一は自然に目を閉じてまどろんだ。
由香里も剛一の胸に腕を回して目を閉じた。

何時間たっただろうか。
由香里は剛一の横で目を覚ました。
剛一は軽い鼾をかいて眠っていた。

由香里はそーっとベッドを抜け、浴室に入った。
浴室の一方の壁は全面ガラス張りで、ベランダの向こうに秋の霞んだ都会の空が広がっていた。
日の傾き具合から午後三時頃だろうかと思えた。

ガラスの浴槽に体を浸した。
ぬるめのお湯が心地よかった。
ベランダの彼方の都会の空に巨大な雲が悠然と青空に浮かんでいた。
だが、沖縄で見たあの勇壮な積乱雲ではなかった。

時間が経つのが早いと思った。
沖縄から帰ってから三ヶ月ほどが経過していた。
美希や遼介と過ごした時間が遠い昔に思えた。
思い出が去ってゆく時間も早いが、今日の時間はもっと早く過ぎ去るような感じなのだ。
別れの明日に向けて、時は確実にどんどん過ぎて行っている。

明日の今頃はもうパパとは別れているのだ。

そう思うとまた涙が出た。
由香里はそれを振り切るように身震いして浴槽を出て、シャワーを浴びた。

するとドアを開けて剛一パパが入って来た。
「あら」といって由香里が小さく叫んだ。
「私が洗ってあげる」
そう言って、シャワーの中に入って来た。

剛一パパがタオルに石鹸を塗り付けて由香里の体を洗い始めた。
これは由香里のおっぱい。
これは由香里の腋。
これは由香里の腕。
剛一はタオルを滑らせながら、その都度、由香里のパーツパーツに話しかけた。
これは由香里のおへそ。
これは由香里のお腹。
これは由香里の割れ目。
これは由香里のクリトリス。
由香里は堪らなくくすぐったく、キャーキャーと笑った。
目に涙がたまっていた。

「嬉しい涙? 悲しい涙?」剛一が訊いた。
「両方。」由香里が答えた。

剛一は万遍なく由香里の体を洗った。
洗い終わって、剛一は由香里にシャワーをかけた。
石鹸の泡が洗い流され、弾力に富んだ由香里の体が現れた。

剛一がそっと由香里の乳首に接吻した。
由香里は手で蛇を求めた。
しかし、今の蛇はぐったりと精気を失って、由香里の掌の中に、だらしなく身を委ねた。

「今、俺は死んでるんだ」剛一が言った。
「ざまあ見みろ」
由香里が笑って、蛇を指で弾いた。

二人は浴室を出て、ガウンを羽織りリビングで寛いだ。
由香里が剛一に跨って座った。
剛一の首に手を回し、剛一の唇に軽く接吻した後に言った。

「明日の今頃は、パパと別れてるのね」
「そうだね」剛一が言った。
すると由香里の目から再び大粒の涙がボロボロとこぼれ始めた。

「由香里、聞いてくれ」
剛一はそう言って、由香里に語った。

剛一はこよなく由香里を愛している。
ここ半年足らずの交際で、剛一は由香里に深く癒されたのだ。
由香里に心から感謝している。

ただ、フランスへ渡るにあたって、由香里の安全のためにも、由香里との交際は打ち切る。
それだけでなく、剛一の周辺から由香里の痕跡をすべて消し去る。

まず、由香里との愛人契約は解約する。
「愛人契約」と銘打った正式な文章を残している訳ではなかった。
実際に交わしたのは、剛一のタックスヘイブンにある或るカンパニーから、由香里へ簡単な広告用イラストの作成を毎月依頼するというものだった。
一方的な解約のため、違約金として、由香里に一千万円を支払うことにする。

次いで、由香里の絵を幾人かの企業のオーナーに紹介する。
ホテルの経営者もいれば、自社で小さな美術館を持っている絵画コレクターもいる。
紹介者の名義は、ジョージ・ルーカスとし、やはり剛一の名前は一切出てこない。
由香里は画家を目指しているが、それへの手助けになればいいと思う。

そして、の秘密のマンションは雁屋遼介に依頼して、処分する。
ここでも、由香里と剛一の痕跡は一切残さないことにする。
そんな内容だった。

「パパ、お金なんかいらない。フリーのイラストレーターとして十分生活していけるわ。それに、絵の紹介先もいりません。自分の絵は自分で高めなくては、いつまでも駄目な単なるアマチュアの絵描きになってしまう。」
「分かるよ。でも、お金は必ずいつか由香里の役に立つ。受け取って欲しい。」
そう言って、剛一は由香里の目を真剣に覗き込んだ。
「そして、絵の紹介先だが、それはチャンスを与えるだけであって、無条件に絵を買い取ってもらうという事ではない。目の肥えた人に、しっかりと評価してもらい、そしてアドバイスをもらうというのが目的なんだ。勿論、相手が欲しいと言えばそれはそれでいいよ。」

由香里は語り続ける剛一をじっと見つめていた。
涙は止まるどころか、いつまでもボロボロと溢れてやまなかった。

「その涙は?」剛一が訊いた。
「うれし涙!!」
由香里が大声で言った。