愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき42.射精のあと寺の中心部へ。大日如来の荘厳な立体曼荼羅

樹上の金色のブルドッグの読経が終わった。
悠然とした読経の時間はどれほどだったのかは分からない。

観想という想像の世界の中で、凜を犯し激しく射精した俺は、現実の世界で褌の中で射精していた。
滝の音の中で目覚めた俺は、心の中が慈悲に溢れているように感じられた。
突然、滝の水が冷たく感じられた。

視界を覆う水の膜に歪んだ風景の中で、緑川が手招きをするのが見えた。
滝から離れて、岸に上がれと言うしぐさだった。
俺はのろのろと緑川に従った。

先ほどの小屋に入ると、既に女たちが滝から上がっていた。
凜と、蘭と、彩夏と、真矢たちである。四人とも透けた白衣の下でほとんど裸同然だった。彼女たちも観想の行を行ったはずである。やはりエクスタシーを体験したのだろうか?誰と交わったのだろうか?
詮索しても仕方がなかった。
ただ、彼女たちは、性的興奮の後のように艶めいて見えた。

女達は彩夏に、俺と浮田は緑川にそれぞれ引率されて、脱衣室のようなところへ案内された。
そこで褌を外し、身体を拭く、新たな法衣を着た。

法衣と言っても、与えられたのは、黒色の紗の袈裟だった。
袈裟は膝ぐらいまでの長さで、透けていて、自分の蛇身が霞んではいるがはっきりと見える。袈裟は体の前でビラビラとはだける。それを締める、帯らしきものも何もない。
エロティックというか、発情的と言うか、奇妙な興奮が湧き上がってくる煽情的な袈裟だった。

「これだけか?下着は?」
と緑川に訊くと、ぶっきらぼうに
「それだけです。後は必要おまへん」とだけ答えた。

「これから密食の行を始めます。こちらへ」
そう言われて、俺と浮田は緑川の後ろに付いて行った。
廊下をめぐり、幾つかの角を曲がり、案内されたのは巨大な空間だった。
「この寺の講堂です」
緑川が言った。

おれはその威容に目を見張った。
緑川の簡単な説明によればこうである。

講堂の高さはおおよそ二十メートル程度。
中央に須弥壇しゅみだんが築かれてある。須弥壇とは、須弥山しゅみせんから来ており、宇宙全体を指すものである。

中心に高さ約十メートル程の巨大な大日如来が座っている。
大日如来とは、真言密教の教主である仏であり、密教のご本尊である。金色の仏像で、柔らかなライトに照らされて、半眼でこの世界を見ている。その巨大さは俺達人間を圧倒的な慈悲で包み込むようだ。

大日如来を中心に、高さ約五メートル程度の巨大な仏像や立像が居並ぶ。
大日如来の右に金剛波羅蜜多菩薩こんごうはらみたぼさつ
左手に不動明王ふどうみょうおうが位置している。
そして、須弥壇の四方には
持国天じこくてん
増長天ぞうちょうてん
広目天こうもくてん
多聞天たもんてん
帝釈天たいしゃくてん
梵天ぼんてん
等の守護神が配置され、須弥山全体を守っている。

「立体曼荼羅まんだらです」
緑川が言った。
普通、曼荼羅図は、金剛界、胎蔵界の仏や明王、守護神を平面の織物等に描くが、立体曼荼羅とは図像の代わりに立体の像を配置して構築する。
立体曼荼羅の製作費や維持費には膨大な金が必要らしい。

通常お寺の須弥壇は床から一段高く作られるが、この寺では段が無く、講堂の床と同じ高さである。また居並ぶ仏像等は半円形に配置され、中央の広間にその仏の視線が焦点を合わせていることである。

つまり、俺達が須弥壇の前に座ると、仏様の視線の焦点の中に位置することになり、四方から仏さまに眺められている構造になっているらしい。

「これが、この寺の最大の特徴ですわ」
緑川が得意げに大阪弁で説明する。

更に特筆すべきは、講堂の奥は、剥き出しになっている岩肌である事だという。
岩肌の間を清水の細流が流れていて、岩肌を絶えず滑らかな光沢に包み、流れる音が、自然の囁きを囁き続け、それはそのまま、仏様のお声であるという。

崖の凹凸を利用して、照明をを仕込み、間接照明で仏さんたちをまろやかに浮きだたせている。
照明や空調設備にも相当な費用が注ぎ込まれていて、春夏秋冬、快適な湿度温度に保たれている。

緑川の簡単な説明の後、俺と浮田は、講堂の中央部、つまり大日如来様の前に引率されてそこに座った。
大日如来の目が俺を捉えた。無表情の様であり、微笑んでいるようであり、慈しんでいるようでもある。
そして、金剛波羅蜜多菩薩の柔和な貌、不動明王の怒りの貌、帝釈天らの憤怒ふんぬの貌が一斉に俺に向けられている。
俺は自然に、滝の中での真言を心の中で唱えていた。

掲諦ギャーテイ掲諦ギャーテイ波羅掲諦ハラギャーティ
波羅僧掲諦ハラソーギャーティ菩提薩婆訶ボジソワカ

講堂の床には楕円形の大きな敷物が複数敷かれ、畳でもなく、絨毯でもなく、ゴムやプラスティックでもない、適度な柔らかさと硬さの素材が体になじんだ。

やがて女達もやって来て、俺たちとの間に五メートルほどの間を置いて、用意された小さな敷物の上に座り、俺たちはお見合い番組のように対面する事になった。

女達も全裸の上に半透明の袈裟を羽織っているだけだったた。男たちと違うのは、袈裟の色が華やかなことだ。
凜は水色、蘭は紫、彩夏は白、真矢は金色の袈裟だった。
それぞれの女体の乳房や乳首、腹、恥丘と陰毛の影、太腿がそれぞれの彩られた袈裟の下で、発熱しているように見えた。

凜は鮮やかな水色の半透明の袈裟に裸身を包み、蘭の左隣に座っていた。
小振りの乳房の上で、ピンクの乳首が尖っていた。
俺と自然に目が合った。
ボーイッシュな髪の下の漆黒の瞳が心なしか潤んでいる様に見えた。
俺の胸の中から親密な情感が湧き上がり、無性に慈しみを覚え、抱きたくなった。
俺の蛇が勃起してきた。
俺は、本当に凜に惚れてしまったのだろうか。

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