リンから受け取ったスマホの向こうで男の声がした。
「松岡さんですか?突然のことで怒っておられるでしょうね。二人に代わって謝ります。」
丁寧な、中年の男の声だった。
「いま、詳しくは話せませんが、何とか三日間だけ面倒見てやって欲しいのです。
三日後、必ず二人はあなたの前から姿を消します。決して犯罪者とかじゃありません。
承知していただければ、三日間の行動費、百万円を即振り込みます。」
「百万円?」
「三日後に、二人が無事姿を消した後、更に二〇〇万円お支払いいたします。」
「そんな話、信じられん。あなたは何者だ。二人は何者だ」
「二人は重要な情報をある人から預かっています。その情報は世界に大きな波紋を呼ぶ情報です。二人はこのままだと命の危険に曝されるんです」
「いくらでも作り話はできる。ややこしい犯罪には巻き込まれたく無い」
「逆です。二人はある国際的な犯罪を暴く情報を持っているのです。」
「どうでも良い。俺は面倒なことは嫌だ」
「じゃ、あなたの銀行口座を教えてください。今すぐ百万円振り込みます。それから判断してください。ちなみにネットバンクの口座があれば便利なんですが。」
俺は騙されても言いと思って、とりあえず所有しているネットバンクの口座を伝えた。
「了解しました。五分後、スマホからでも口座の内容を確かめてみてください。」
俺が電話を切ろうとすると相手が言った。
「これは大切なことです。必ず実行してください。車を会社に戻した後は、一週間は会社を休んで下さい。会社には行かないで下さい。」
「何だと。一週間も休んだら下手したら馘になってしまう」
「大丈夫です。その後は私たちが修復します」
俺は無造作に電話を切った。
蘭と凜が俺に微笑んでいた。
「わけのわからん電話だ。本当にお前ら何者なんだ」
「時期が来たら教えます」
凜が言った。その口調には毅然としたものがあった。
俺たち三人は車に戻った。
とりあえず、この車を会社に戻そうと思った。会社まではここからあと少しである。
暫く走ってから
「松岡さん、そろそろ銀行口座を確かめてみて」蘭が言った。
午前六時を過ぎ、街は活気に溢れ始めていた。
安全を確かめながら路肩に車を停めた。
俺はスマホでネットバンクにログインした。
そして残高をみて驚いた。百万円が振り込まれていた。
振り込み主はアルファベットが六文字ほどの見たこともない名前だった。
「確かに百万円振り込まれている」
「じゃ、三日間の愛人生活成立ね」蘭が言った。
おれはまだ事態が飲み込めずに黙ったままだった。