お早うございます。
得体の知れない不気味な夢の中で、優雅な女性の声が響いた。目を開けるとドアを開けて藤さんが微笑んでいた。
俺は慌てて起き上がり、ベッド横のカーテンを開いた。
裏庭に森が広がり爽やかな光が降り注いできた。
光に照らし出された部屋は広く、和風の作りで庭に続く縁側が光っていた。
藤さんは昨夜とは違った、明るい普段着の洋服姿だった。
熟年の魅力が漂っていた。
「朝のお食事です。皆さん既にお揃いです。全員揃ったら凜さんが秘密を少しお話しするそうです。」
そう言って、俺をダイニングへ案内した。
俺は、彼女たちが何を話すのか、強い好奇心に襲われた。
中に入るとブルドッグが
「おはようございます。よく眠れましたか」
と、明るく声をかけてきた。
あの下卑た貪欲で獰猛なブルドッグとは思えない。知性ある抑制の効いた壮年の男である。
「ありがとうございます」
俺も良識の有る男を演じて応えた。
「おはようございます」
「おはようございます」
蘭と凜も明るく声をかけてきた。
二人とも昨夜とは違って、上品なパジャマを着ている。
昨夜のエロスはひとかけらもない。
俺は良い子たちを前にした、薄汚れた想念を持つ卑猥な中年の男のように、自分が感じられた。
蘭と凜の前の席には和風の朝食が盛られ、食事を終える頃だった。
大きなテーブルの主人席に座っているブルドッグが言った。
「これで全員でんな」
「いいわ、じゃ、少しだけ、私たちのことをお話しします。」
凜が言った。
凜の話はこうだった。
凜と蘭はある中国人学者が開発した「セル」という極小のロボットを盗んだのだった。
セルは大きさ三ミリ程度のほぼ球体のロボットである。
ただ、この球体のセルが数千個、あるいは数万個集合し合体して、大きなビッグロボットを形成する。
この形成されるビッグロボットは殺人ロボットであり、自考自走式である。
一度狙ったターゲットをどこまでも追いかけて最終的に対象を殺害破壊する。
このシステムの画期的な所は、たった三ミリの球体が信号を受発信し、群体を形成し、その場にふさわしい形態を群れで作り上げるところだという。
時には牛の形になり、時には蛇になり、あるいは魚になり、鳥になり、ついには二足歩行の人型にもなれる。
牛になれば牛のスピードで、蛇になれば蛇のスピードで、鳥になれば空を飛び、そして人になれば人のスピードで移動することが出来るという。
この殺人ロボットのもう一つの特長は、銃やナイフ、あるいは化学物質など、従来の兵器を使用しないことだという。
何千というセルが対象に群れて襲い、口や鼻を被い塞ぎ、窒息死させるのだという。
あるいは、ターゲットの体内に潜り込み、内部から破壊するという。
説明を聞いていたブルドッグは
ウーン
と唸り続けていたが、突然大声を出した。
凄いぞ。
そりゃ凄い。