愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき27.女二人はハニートラッパー。その実態とは。

「すごいでしょ。私もそう思う」
凜が言った。
「ロボットの件は分かった。で、あんたたち二人はそもそも何者だ」
俺は少し声を荒げて凜に言った。
俺は昨日の早朝、真っ暗な国道で蘭と凜を拾い、そのために変な危険な男たちに追われる羽目になったのだ。
「私たち、ハニートラッパーなの」蘭が言った。
「え?」
俺が訊き返すと蘭が話した。

セルは世界の軍事関係者に衝撃を与えた。各国はそれに追いつこうと研究を始めた。
一方で、そのセルを奪うという極秘作戦も進行した。
蘭と凜が属する組織はまず、一年かけてその中国人学者を追い、情報を集め、個性と行動パターンを把握した。
男の名前は劉浩然。

年齢は四十六歳。東京工科大学の人工知能と情報工学の教授である。
でっぷり太っていて、どちらかというとブ男で強い自己顕示欲を持つ教授であった。
女は寄り付かず、いまだ独身。一方で性欲は強く、バーやクラブに通っては金で女を漁っていた。
ハニートラップ作戦が始動した。

男に甘い言葉と体で近づき、罠をかけ、情報を奪う作戦である。
まず凜が人工知能の優秀な女性研究者を装い、情報学会で劉に近づいた。
次いで、凜の親友という筋書きで蘭が加わり、二人で劉を引き付けた。
半年ほど、会話や食事を楽しむ交際を続け、頃を見て3Pプレイを仕掛けた。
劉は、蘭と凜の甘い罠にどっぷりと嵌まり込んだ。

ところがつい最近ある事件が起きた。
蘭と凜の組織の情報がごっそりと漏洩してしまったのだ。
中国、ソ連、北朝鮮の仕業だという仮説が飛んだが実態は分からなかった。
その漏洩した情報の中に、蘭と凜のハニートラップ作戦のすべてが含まれていた。
セル、劉浩然、蘭と凜の顔写真とハニートラップ行動等々。
蘭と凜に、仮想敵国の諜報員が襲撃を掛けてくる恐れがあると連絡があった。
直ちに作戦を完遂して、退避せよという指示だった。

蘭と凜は作戦の仕上げと遂行をを見切り発車した。
それが昨日の早朝、午前三時頃だった。
ホテルの一室で、3Pプレイの後、眠っている劉のバッグから首尾よく二粒のセルを盗み出すことが出来た。
ところが、仮想敵国の組織がそのホテルに到着し急襲して来るという緊急の情報が凜のスマホに入った。
二人は大慌てでホテルを脱出した。
暗い地方都市の国道を目指してひたすら走った。

「そこで出会ったのが俺か?」
俺の声がつい大きくなった。
「そうなの。本当に助かったわ」
凜が言った。そして続けた。

「今から二日後、和歌山白浜漁港沖で潜水艦が待機する。私たちはその潜水艦に乗るの」
「面白いなー」
ブルドッグがコーヒーを飲みながら言った。
その大きな目が好奇心でキラキラ光っていた。
俺は思わぬ秘密と展開に頭がくらくらしていた。
こんな驚きはもちろん経験したこともない。
まるで映画を見ているような、幻のような印象を受けた。

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