愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき36.発信機を抑え込め!!

「このカプセルの中に劉浩然が試作したセルが入ってるの」
蘭が自分から取り出したカプセルを指して言った。

セルとは、殺人ロボットを構成するの極小のユニットである。このユニットが数千個集まって、変形自在な殺人ロボットを形成する。
「このセルが殺人ロボットを構成するには、セル同士の通信が必要なの。通信し合って、集合したり、分散したり、位置を決め、複数でで機能を決め合ったりするの」凜が言った。
「生きてる細胞と同じやな。細胞同士が通信し合っているってのは、どっかで読んだことがある」後ろ座席からブルドッグが首を出して言った。
それにつられて、緑川と彩夏も覗き込んできた。

「今でも通信し合ってるのかな?」俺が言った。
「その可能性はあるわ」凜が答えた。
「きっとGPSを通じてやってるわ。劉浩然が言ってた」蘭が言った。
「凄いな」緑川が一層身を乗り出して言った。
「その通信を、奴らは傍受しているということか」ブルドッグが言った。
「通信し合っているとしたら、そうなるわ」凜が言った。

俺は掌の上のカプセルを見続けていた。
すると、二つのカプセルは互いに同期し通信に成功したのか、微かに震え始めた。
「おい、これを見ろ。カプセル同士が震え始めたぞ」
「凄い」再び緑川が言った。

「この通信を止めたら、奴らは俺たちを発見できないんだ」俺が言った。
「でもどうやって?」彩夏がポニーテールの可愛い頭を前のめりにして言った。
凜も蘭も緑川も分からんと言った表情を見せた。
勿論俺にもわからない。

「簡単だ」ブルドッグが言った。
皆の視線がブルドッグに集中した。
「通信は電磁波を使っている。だから、電磁波を閉じ込めればいいんだ」ブルドッグが得意げに言った。
「だから、どうやってやるんだ」俺が言った。
「アルミホイールで包んでしまえばいい。アルミは電磁波を通さない」ブルドッグが続けた。
「そうか、そうね。戦闘機がミサイルのレーダーからから逃げるとき使うのが、大量のアルミ箔だもんね」
「そうなんだ。アルミホイールなんだ」
「オーケイ、出来るだけ早くスーパーか何かでアルミホイールを買おう」
俺たち皆が希望に満ちた顔になった。

「しかし」
と、俺は続けた。
「もう一つの疑問だけど、奴らが襲う寸前、桐野から避難指示が入ってくる件は?」
そう言って、凜と蘭を交互に見た。
二人とも、分かんない、そんな表情を返した。

雨は降り続いており、国道を挟む両側の山並みは黒い影となって沈黙していた。
俺はとにかく車を出した。

山並みの間を走り続けて暫くすると小さな集落があった。
その一角に小さなスーパーらしきものが有った。彩夏が飛んで行ってアルミホイールを買った。

「俺に貸してみろ」
そう言ってブルドッグがホイルからアルミ箔を引っ張り出した。
一つ一つのセルを、それぞれ丁寧に、難渋にもアルミホイルで包んだ。

-愛人もどき。危険な女二人。