やがて、赤いセダンの後のドアが開くと、手を手錠のようなもので拘束された蘭と一人の男、そして前のドアからはもう一人の男が出てきた。男二人はM4カービンを腰にためていた。
続いて横の白いワンボックスカーからも男二人が出てきて同じようにM4カービンを構えた。
男たちは誰もが濃いサングラスをかけ、いかにも威圧的な雰囲気を漂わせていた。後座席にはもう一人の男の影が微かに見えた。
ワンボックスカーの後座席から拡声器が覗いた。
そして罅割れた音で呼び掛けて来た。
「凜!おとなしくセルを渡せ。そうすれば俺たちは蘭を引き渡す。お前たちにも攻撃はしない。凜、よく考えろ」
俺は思わず凜を見た。
しかし、凜の表情は揺らいではいなっかた。
蘭を助けて、セルを持って、潜水艦へ行く!
そう語っている様だった。
時間は十四時四五分。十五時には船に乗って港を出なければならない。
「時間がないぞ」ブルドッグが言った。
「よし、行くよ。彼らの射撃は下手くそよ」凜が言った。
「ゴー」ブルドッグが叫んだ。
ブルドッグは赤いセダンの後座席目指してレクサスを発進させた。リムがコンクリートの路面をを砕くような凄まじい音が響いた。
同時に緑川のジープもワンボックスカー目指して発進した。
赤いセダンの男たちは動揺して態勢を崩した。しかしすぐに膝立ちの姿勢でM4カービンを構えレクサスに向かって連射した。レクサスの前の路面とフロントガラスに銃弾の群れが弾き飛んだ。
レクサスと赤いセダンが接近するには五秒と掛からなかった。凜は後座席のドアを開け、楯代わりにして飛び降りた。銃弾がドアでダダダと弾けた。
「らーん!!」凜が叫んだ。
「船に走るのよ!!」
その声を合図に、蘭が身をひるがえして体を回転させ、後ろ蹴りで男の首筋を蹴った。男は大きく跳ねる様に飛んだ。攻撃の勢いで蘭がよろめいた。
それを助けるために、ブルドッグがレクサスの運転席のドアを開け放なし飛び出した。
ブルドッグはM4カービンを構えているもう一人の男に飛びついて、顔面に拳を叩き込んだ。
「ギャッ」と叫んで男が崩れ落ちた。
彩夏が飛んできて、凜と一緒に蘭を抱え込み、船に向かって走った。
後ではジープが白いワゴン車に体当たりをしていた。ワゴン車の男二人はジープから逃れるために慌てて退避した。その瞬間をついて、緑川がジープから飛び降り、全速力で蘭と凜、彩夏を追った。
俺も緑川に並走する形で船を目指した。
蘭は手を拘束されていたため、全力疾走に失敗し、脚を絡ませ、凜と彩夏の腕から滑る落ちるようにして、路面に転倒した。
ブルドッグが助け起こそうとして蘭に向かって走った。
すると先ほど蘭を拘束していた男がジャンプしてブルドッグの脚にタックルした。
ブルドッグは空中を回転するように弾かれ、蘭の前に崩れ落ちた。
その時である。
あの船の男が拳銃を取り出し、ブルドッグに銃を向けた。
よく見ると、男の足元には漁師らしい男が横たわっていた。
まさか、と俺は思った。
男が漁師から船を奪い、成り代わって、俺たちを捉えに来たのか?
「危なーい」
凜が叫んだ。
その声で蘭が、ブルドッグを狙っている拳銃に気付いた。
蘭は態勢を整える暇もなく、ブルドッグをかばうために、その巨体に身を被せた。
男が拳銃を発射した。
銃弾が蘭の背中に命中した。赤いものが吹き飛んだ。蘭がのけ反って倒れ込んだ。
「らーん!!」
凜が叫んで、男の前で二回転し、男にトカレフを撃ち込もうとした。
その瞬間、凄まじい閃光と轟音が俺たちを襲った。太陽の何百倍もの閃光だった。
俺は一瞬は視力を失い、聴力も失なった。自分がどこにいて何が起こって、何がどうなったのか、完全に自失した。間髪おかず、朦朧とした意識と視界の中で、スピーカーの音が聞こえた。
「そこまでだ!!凜!トカレフを撃つな!!俺の声が分かるか?」
そんな声が聞き取れた。
凜も自失していたのだろうか、いや、今の声を聴いて撃つのを止めたのだろうか。トカレフの銃声は聞こえなかった。