「始めます」
藤さんが言った。
それを合図に、突然、講堂内が真昼のように明るくなった。
柔和な光の中で神秘的に浮き出ていた立体曼荼羅は、正午のような光の中で燦然と輝き、より一層荘厳な姿を現した。
大日如来の巨像が空中に浮かぶようだった。
龍の食卓とその上の小舟が黄金色に燃え上がった。
船の中の曼珠子の体は乳白色の大理石のように光沢を放った。
そして、大日如来の前の、俺たち人間たちも、すべてを光の中に照らし出さたのだった。
声明の響きが強くなった。
犬阿闍梨の横に添っている真矢はどうしたらいいのか分からなく戸惑っていた。
そこへ藤さんが手を貸して、真矢を立たせて、結跏趺坐している犬阿闍梨の腰の上に跨らせた。
そして、真矢さんの腕を犬阿闍梨の首に巻き付かせ、頭に手を添えて、真矢の唇を犬阿闍梨、ブルドッグの唇へと誘導した。
犬阿闍梨は真矢に腕を回して抱きすくめ、真矢の唇を音を立てて吸った。
下品な吸い方だった。
阿闍梨の腕の中で、金色の袈裟が揺れ、透けた袈裟の下の真矢の背中と臀部が、何かに飢えているかのように波打ち始めた。
犬阿闍梨は唇を離すと
ハハハハハ
と大声で笑った。
「真矢さん、あなたの唇は最高に旨い。蜜の味だ。蜜の舌だ。淫せよ、乱れよ」
と俺たちに聞こえる様に大声で言った。
藤さんは、曼珠子の乳房の上のローストビーフを皿に乗せ、まず、一切れを犬阿闍梨の口に運んだ。
犬阿闍梨はそれを口の中で咀嚼し、それを真矢に口移しを送り込んだ。
真矢は目を閉じてそれを口で受け止め、そして自分でも咀嚼し、それを飲み込んだ。
閉じた瞼の淵から一筋の涙が流れていた。
犬阿闍梨と真矢のエロティックなやりとに目を奪われている俺に、彩夏が訊いてきた。
「どれ食べる?」
可愛かった。首筋とうなじが清楚で可憐だった。
「おれもローストビーフがいいな」
そう言うと、彩夏は曼珠子の胸の上のローストビーフを一枚手で摘まんで、自分の口の中に入れて咀嚼し始めた。
犬阿闍梨の真似か?
思った通り、彩夏は俺の首に手を回し、俺の口に、彼女の中のものを送り込んできた。
咀嚼された肉がペーストとなって、柔らかで冷たい舌と混じり合い絡み合い、俺の口の中で、唾と溶け合った。
俺はそれを飲み下した。
未体験の、淫乱な、肉の味と彩夏の舌の味が俺を興奮させた。股間の蛇がゆっくりと身悶えするのを感じていた。
俺は自然に彩夏を抱き締めていた。
細くしなやかで、俺の腕と体にすんなりと納まり、溶け込んでくる体だった。
見詰めると、若い瞳がキラキラと輝き、微笑んでいた。
観音様の微笑みだった。
緑川が彩夏に惚れているのも無理はないと思った。
俺は、凜に少し気を残しながら、白い袈裟の下の彩夏の乳房に掌で揉んだ。
アアア
彩夏が小さな声を上げた。
俺は彼女がしたように、曼珠子の乳房の上のローストビーフを一枚、口の中に放り込み咀嚼し、柔らかくなったものを、彩夏に口移した。
彩夏の舌が絡んで来て、肉の変形物と俺の涎を吸い込み、飲み下して行った。