愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき31.豪雨の予感と怪しげな追尾車

バックミラーに映っている、ブルドッグと蘭の性交が終わった光景を見て、自然な疑問が湧いた。

ブルドッグつまり社長とは何者か?
そして、ハニートラッパーの蘭と凜の本当の正体は?
彼女たちの背後に控えている、雁屋と桐野という人物との関係は?
そして、そもそも、蘭と凜のハニートラップの組織とは?
疑念と言うか、疑問というか、あまりにも多すぎる謎の数々だった。

後ろ座席の喘ぎと呻きが途絶えた。
蘭とブルドッグは互いの体を、さすり合い、撫で合い、癒し合い、鎮め合っていた。
動物が本能的に行うトリートメントのようだった。
皮膚のこすれ合う秘めやかな音の中で、ブルドッグのざらついた、甘い、かつ鈍重な声が聞こえた。
「蘭ちゃん良かったで」
「フフフ」
「ほんま、ええ体やな、惚れてもうた」
「私も」
そんな睦言が交わされていた。

俺はそんな二人の睦言を振り払って前方に集中していた。
車は谷合の細い道を走っていた。
俺たちの背後には、緑川と彩夏の乗るランドクルーザーが付いて来ていた。
前方の、左右の山の彼方の夏空に、積乱雲が競りだしていた。
空を突き抜ける積乱雲の先端は眩く輝き、反対に、地に被さる底辺は真っ黒な雲の澱みとなっていた。
もうすぐ驟雨が来ると思った。

「ね、あれ見て」
助手席の凜が後のランドクルーザーの更に後方部を目で示した。
何の変哲もない白塗りのワゴンカーが付いて来るのが見えた。
「さっきからずーっと一定の距離で付いて来てるのよ」
「別に何の問題も無いだろう」俺は言った。
「でも何か気になるの。第六感と言うやつよ」
そういう凜に視線をやった。
凜の、緊張した横顔が美しかった。

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