愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき62 前後に敵。左は山。右は川。どうする!!装甲レクサスを信じろ!!

狭い林道をとにかくひた走った。
と言っても時速三十キロ程度のノロノロ運転だった。村落の影が現れては消え、また現れては消えて行った。
思った以上に時間を取られていた。
林道の前方の雨に煙る中に小さな神社の影が見えた。ナビゲーターでは、その先を右に曲がって道なりに進めばやがては国道に出るはずである。車は、歴史の古そうな神社を左に見ながら、川に沿って南南西へと向かった。

道が三叉路の分岐点に差し掛かった。
「アッ」とブルドッグが小さく吠えた。
前方に横付けしたワゴン車が俺たちの進路を阻んでいた。車の前には、簡易バリケードが設置され、守りを強固にしていた。
「奴らよ」
蘭が言った。
凜も俺も後座席から身を乗り出してフロントガラスの前方に目をやった。
ブルドッグはワゴン車と百メートルほどの距離を置いて車を停めた。後のジープも俺たちに倣った。
「後ろからも来たぞ」
無線から緑川の声が聞こえた。
振りむ行くと、ジープの後方に、もう一台のワゴン車が迫り、そして百メートル後方で止まった。
俺たちは緊張した沈黙に包まれた。

前のワゴン車から、迷彩服の男が二人出てきて、それぞれが俺たち向けて銃を構えた。後方もそうだった。俺達は四名の敵と四丁の短機関銃に包囲された形になった。
緑川が無線越しに言った。
「俺たちのM4カービンと同じだ!!」
あれが実弾を装備していたら、その破壊力は大したものなのだ。

前の車が拡声器で呼びかけてきた。
「蘭と凜が奪った物を渡せ。俺たちが欲しいのはそれだけだ。そうすれば、俺たちは君たちに何の危害も加えない。」

ブルドッグが蘭と凜を舐める様に見た。俺もそうした。
「奴ら、お前たちのことをよく知っているようだ。どうする?」
ブルドッグが訊いた。
蘭が凜を見詰めた。凜はじっと蘭を見つめて、間を置いて言った。
「駄目よ、渡せない!」
蘭がそれに応えて頷いた。

「六十秒待つ。答えが無ければ、残念だが攻撃する!!」
拡声器が響いた。バリケードの後ろで二人の男が片膝をついて銃を構えた。

俺たちは再び沈黙した。
策が浮かばなかった。
凜が言った。
「この車は大統領と同じ車よ!この程度の危険には耐えれるはずよ!」
間髪を入れずにブルドッグが言った。
「オーケイ、単純に行こう。」
そして無線のマイクを握って言った。
「バリケードを前面突破する。緑川、相手は必ず一瞬混乱をきたす、そこを突いて逃げる。レクサスから離れるな、距離を開けるな。奴らを突き崩したら、右下の河原に走り込み、川を突っ切って対岸に逃げる!!いいか!!」
「了解!!」

-愛人もどき。危険な女二人。