俺は凄まじくクラクションを鳴らしながら前方の交差点のワゴンカーに突進した。
車間距離はどんどん狭まって行った。
俺は最悪、このレクサスを白いワゴンカーにぶつける積りだった。
レクサスはおそらく、奴らをなんなく簡単に粉砕するだろうと確信していた。
どけ― どけ― どけ―
俺は無意識に叫んでいた。
五〇メートル程近づいた時、相手はこちらに気づいたのか、あるいは俺たちの後ろの土石流に気づいたのか、ワゴン車はいきなりバックを始めた。
バックの方が、土石流を避けられると思ったのか?
いや、俺達が突き進む林道は右に少しカーブしていた、つまり、彼らの車の前方に雪崩込む可能性が高かった、彼らの計算は正しかったのだ。
振り向くと、曇ったリアガラスを透して、凄まじい土石流が流木や土石や土砂を飲み込んで、茶色の飛沫を上げ、背後に迫っているのが見えた。
俺はアクセルを限界まで踏み込んだ。メーターは時速八〇キロを示していた。
このままだとレクサスは交差点を突破して、向かいの山壁に衝突してしまう。
ママよ―
俺は三〇メートル程手前で、ブレーキを踏み、過去一度しか試したことのない逆ハンドルでドリフト走行を試みた。フェイントモーションでハンドルを逆に切りドラリークイックを仕掛け、交差点に突っ込んだ。
車は、予想通りと言うか、嘘だろうというか、腰を振って滑走し、右方向に頭を向けて、府道にうまく乗り入れ、そして再び加速した。
その瞬間、土石流が背後をかすめ、山壁にぶち当たり、流木や土石の入り混じった危険な塊となって、轟音を立てて飛散した。
俺はアクセルを踏み続けた。
凜が無意識に俺にしがみついていた。
後座席は鎮まっていた。振り向くと四人とも頭を背もたれに埋め、声を失っていた。
後の窓は曇ってよく見えなかったが、土石流の波が次々と山壁を襲い続けていた。 あのワゴン車の影はその彼方にあるのだろう、完璧に視界から消えていた。
府道を山沿いに暫く走って車寄せのあるところで停車した。
俺は大きなため息をついてハンドルに身を投げた。 危機を脱出した喜びと疲れが一度に全身を襲った。
喉が渇いていた。
すると凜が俺の唇を吸った。おれの口の中に凜の唾液が送り込まれて来た。俺は凜の舌を絡め捕って吸い込んだ。凜の舌がそれに応えた。
ヌルヌルしていた、神秘的で、甘く、エロティックな唾液だった。
勃起するのが分かった。
でも俺は、凜の乳房を服の上から軽く撫でるだけにして、蛇の暴走を我慢した。
奴らは何故か俺たちの居場所を察知している。どうやって察知しているのか?
その疑問が俺を捉えていた。 その疑問が解けない限り、俺は油断できなかった。