俺は国道四八号線をひたすら南へと走った。
俺の頭の中のナビゲーターはとにかく四八号線を道なりに走り続けるルートを示していた。
後ろの座席が鎮まっていた。
蘭とブルドッグ、緑川と彩夏、二組のカップルが互いに型を抱き合って眠っていた。
隣を見ると、助手席の凜もうつむいて眠っていた。
無理もなかった。
モールでランドクルーザーを爆破されて以来、緊張が続いていたのだ。後の四人は、途中、車の揺れで互いの体を刺激し合い、結局激しい性交となったが、それも疲れを助長したのだろうと思う。
凜の横顔が可愛いく感じられた。
ショートボブの頭が少年ぽい。形のいい鼻がツンと上を向いていて、小さな唇が少し開いている。どこかの大学の研究室にいそうな、知的で聡明な女史と言った印象だ。
そんな彼女が、なぜ危険なハニートラッパーなんかやっているのか?
おれは興味を掻き立てられた。
俺は助手席に首を伸ばし、凜の頬にキスした。
するといきなり凜がおれの首を抱えて唇を合わせて来た。一瞬、凜の舌を感じたが、すぐに彼女の腕から逃れ、運転に戻った。
見ると、凜が薄く目を開けて俺をみて微笑んだ。俺も微笑み返した。凜はそしてまたすぐに目を閉じた。
可愛くて奇麗だと思った。
助手席のむこうでは、雨に煙る山並みの下に夕暮れの闇が立ち込め始めていた。
南へ南へと走る車は、やがて紀ノ川と交わるだろう。
紀ノ川を突っ切って山村に入り、くねくね曲がる道をひたすら走り続けると、高野山に出るはずである。
やがて凜も軽い鼾をかいて眠ってしまった。
静かになった車内で俺一人目覚めており、俺はアクセルを踏み続けていた。
車内は、レクサスのトルク感のある重厚で微かなエンジン音が静かに響いている。静かである。
俺はこの走行中の静けさが好きだ。
それは、タクシードライバーをして得た幸福感である。