愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき32.モールの駐車場でランドクルーザーが爆破される

細い道を上り切り、峠の頂上に出た。
眼下に市街地が広がった。
片道二車線の整備された道だった。
道路の両脇には区画整備された新興の街並みが広がり、大型ショッピングモールの看板が見えた。
「ね、靴を買い替えたいわ」
助手席の凜が言った。
そう言えば、凜も蘭もブルドッグの死んだ奥さんのパンプスを履いていた。
「サイズが合わないのか?」
俺が訊くと
「サイズもそうだけど、動きにくいの。いざという時が来そうな予感がするわ。」
そう言われて後ろを振り向いた。
やはりあの白いワンボックスカーが、ランドクルーザーの後ろから付いて来ていた。
「分かったショッピングセンターにでも寄ろうか?」
俺は途中から車線を変更して、さっき見えていたショッピングモールへとハンドルを切った。

モールの駐車場は結構広かった。
平日のせいか、駐車場の端の方は車がまばらだった。
俺は、見晴らしがいい、車が止まっていない区画に車を停めた。
図体のでかい重厚な防弾車レクサスの横に、緑川のランドクルーザーが寄って来て停まった。
念のためあたりを見回したが、例のワンボックスカーは見当たらなかった。
凜の思い過ごしか?
俺はそう思って安心した。
俺と凜、蘭とブルドッグ、緑色の頭の緑川と彩夏の六人はちょっとしたレジャー気分でショッピングモールに向かった。

モールは広く食料品から宝石まで何でも揃うショッピング街となっていた。
凜と蘭はまずスニーカーを買った。自分のサイズに会った、走りやすくお洒落なスニーカーだった。
金は、当然のように俺が支払わされた。
三日間の礼金と言うことで振り込まれた百万円の一部である。
次いで
「お化粧品も欲しいな、松岡さん!」
蘭が、ねだるような甘い声で言った。
それを聞いて、凜と彩夏が嬉しそうに「そうだそうだ」という風に頷いた。
結局、俺たち男三人は、女三人の色々な買い物に付き合わされることになった。
女達は、化粧品コーナーで、口紅やアイラインなど、あれが良い、これが良い、この色が合う、合わないなど、延々とお喋りをしながら商品を物色した。
買い物が終わったのはほぼ一時間ほど経った後だった。
いつの間にか正午になっていた。

俺たちはフードコートでマクドナルドのハンバーガーを食った。
ここからは駐車場が見渡せた。
その彼方に小高い丘が連なり、さらにその彼方にあの積乱雲が聳えていた。
やはり、雲の下は真っ暗で雨雲が層をなしていた。

蘭とブルドッグ、凜とおれ、彩夏と緑川がそれぞれ二人用のテーブルに着いた。
蘭とブルドッグが親しげなカップルに見えた。
「ちょっとお手洗いへ」
彩夏がそう言って席を外した。
暫くして戻ってきた来た彩夏の顔が真っ青だった。
彼女が俺たちにこう報告した。

変な男がトイレの入り口に立っていた。ダークスーツのサラリーマン風の男だった。
その男が近寄って来て囁いた。
「女達に伝えろ。早くブツを渡せ。でないと殺してでも奪う。俺たちは本気だ。駐車場を見ておけ。」
彩夏の報告をを聞いて、俺たちは駐車場に目をやった。

その時である。
緑川と彩夏が乗っていたランドクルーザーが爆発した。
大音響とともに炎と黒煙が吹きあがった。
もうもうと巻き上がる黒煙の向こうにレクサスが悠然と構えていた。
フードコートの中はたちまち悲鳴で満ちた。
「急いで!!」
凜が立ち上がって走り出した。俺たちは凜に続いた。
フードコートを横切り、モールの外へ、駐車場へと飛び出した。
買い物客や、警備員たちが走り回っていた。その隙間を縫って俺たちは爆発で燃えているランドクルーザーを目指した。

ランドクルーザーが炎の中でもがいていた。
レクサスが身じろぎもせず俺たちを待っていた。
「全員、レクサスに飛び乗れ!!」
俺はそう叫んで、レクサスの運転席に飛び込み、イグニッションキーを回した。
助手席に凜、後座席に、蘭に次いで社長、彩夏そして緑川が飛び込んだ。
全員が乗り込んだのを確認して、アクセルを踏んだ。
レクサスは巨大な犀のように猛然と発進し、炎と煙を吹き飛ばし、加速した。
出口の自動精算機のバーが降りていた。
俺がその手前で止めると緑川が要領よく金を入れた。
バーが開いた。
遠くでパトカーのサイレンの音が鳴っていた。

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