女たちはテキパキと凄まじい速さで退出の態勢に移った。
服を着て、荷物をまとめ、俺をせかし俺に最低限の持ち出す荷物を指示した。
俺は安物の服を着て、財布とスマホと、いつもの鍵束をポケットに放りこんだ。
「行くよ」凜が言った。
ほぼ十分だった。
マンションの外に出ると蘭が言った。
「あそこに男が一人」
「オーケイ、あっちに男が一人」凜が言った。
俺には何が何か分からなかった。
俺たちはそそくさと交通量の多い広い通りに向かった。
ダークスーツを着た男二人が俺たちに気づいた様だった。
凜が言った。
「おじさん、公園の向こうでタクシー拾って」
俺は状況が理解できないまま、駆け足で道路を渡り、タクシーを待った。
やがて俺の前にタクシーが止まった。
道路の向こう側で一人の男が凜に飛びかかった。
凜は素早い身のこなしで男を放り投げたが、よろめいて膝を落とした。
もう一人の男が走ってきた。
蘭が凜に駆け寄り、凜を助け起こし、態勢を整え、こっちへ向かって走り出した。
男が後を追ってきた。
タクシーの後座席のドアが開いたままにして俺は二人を待った。
二人が走って来て後座席飛び込んだ。
俺が助手席に乗り込もうとしたとき、男の手が俺のシャツの首筋に手をかけた。
強い力で俺は引きずり出された。
引きずろ出だされながら、男は俺の胸倉をつかみ、腹を一撃した。
俺は呻いてその場に崩れ落ちた。
すると蘭が後ろ座席から出てきて、男に回し蹴りを加えた。
男はギャと言って吹っ飛んだ。
俺は助手席に飛び込んだ。
蘭も飛び乗って「とにかく出して」と怒鳴った。
タクシーが発進した。
さっきの男が後ろで地団太踏むのが見えた。
公園の緑がどんどん遠ざかって行った。
後の窓を振り向いたが、公園は遥に遠ざかり、さっきの男達の影は無かった。
暫く走ってから凜が俺と蘭に
「降りるよ」と言った。
俺は慌ててタクシー代を払った。
すぐ次のタクシーを凜が拾った。
凜は三度ほど、そのようにタクシーを乗り換えた。
四台目のタクシーに乗った時
「ホテルニューオオタニ」と、凜が行く先をいった。
「わかりました」運転手が答えた。
暫く走って俺は後の二人に聞いた。
「何があったんだ」
「後で話すわ」二人が同時に答えた。
「スマホを貸して」
凛が俺に言った。
「支配人をお願いします・・・」
凛はホテルの支配人を指名していた。
そして出てきた支配人に手短に何かを伝えていた。
「そうです。カリヤが指定した部屋です。同行の男性のの名は松岡」
俺の名が出たため、俺はひどくとまどった
「なぜ俺の名を?」
「後で話すわ」
やはり二人同時に答えた。
大阪城公園を望む緑豊かなホテルのフロントにタクシーが着くとボーイが素早くドアを開けた。
外に出ると支配人らしき者が待ち受けていた。
「松岡様ですね」
「そうです」ととりあえず答えた。
「こちらへどうぞ」
と言って、俺と蘭と凜の三人を案内した。
フロントではなく、少し奥まった所の、人目にはつかない壁の後ろに小さなドアがあった。
従業員専用のような小さな質素なドアだった。
支配人はそのドアをくぐり、率先して先に進んでいった。
俺達はとにかく後に続いた。
狭い廊下だった。
左右に何度もクネクネ曲がりアップダウンを繰り返した。
「こちらへどうぞ」
そう言って、支配人が小さなドアを開けた。
「素敵!!」
女二人が声を上げた。
確かにその部屋は素晴らしかった。
中に入ると正面にガラス一面の壁があり、大阪城が緑に囲まれて聳えているのが見えた。
広いリビングだった。古い英国調の調度品が置かれ、ゆったりとしたソファーとテーブルが客を待っていた。リビングの奥のドアの向こうに、広い寝室の一部が見えた。王調風のダブルベッドが備えられていた。
「どうぞごゆっくり寛いで下さい。何か御用があればベルを御鳴らし下さい。」
そう言って支配人は正規のドアから出て行った。
「この部屋、高そうだぞ」
俺は心配になっていった。
確かに三日分の百万円は振り込まれていたが、ここで三日間過ごすと利益は出なさそうだった。というよりも、部屋の相場が、貧乏人の俺には分からなかった。
「大丈夫。何とかなるわ」
蘭が笑顔で言った。