愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき60 ハニートラッパー女二人の組織の闇。装甲レクサスの凄み。

とにかく俺たちは計画通り林道を走った。
雨は止むことなく林と空とレクサスとジープを濡らし続けた。

俺のスマホが鳴った。あの桐野だった。
「状況はどうですか。目的の時間まで、三時間を切りました。大丈夫ですか?」
「少し面倒だ」
「そうですか。だが、蘭と凜なら大丈夫です。それにそのレクサスは凄いのです。時間厳守です。」
「奴らは何者だ?」
「私にもよくわかりません。それより伝えたいことがある。彼らは戦力を増強したようだ」
「増強?」
「もう一台の車を追加した。加えて二チームとなった。」
「でも俺たちはドローンを追撃した。俺たちの位置の把握と追跡はもう出来ないはずだ」
「彼らも必至だ。全ての情報と推察を駆使して、あなた達を追っている」
すると凜が俺のスマホを取り上げて代わった。

「凜です」
「お元気ですか?」桐野が言った。
「元気です。一つどうしてもお聞きしたいことがあります」
「何ですか?」
「前から気になってたのですが、あなたは、どうして奴らの情報がわかるのですか?」
蘭が振り向いて、そうだ、そうだという身振りで頷いた。
相手は沈黙した様だった。

「高度な機密事項に触れますので、今はお答えできません」
桐野はそっけなく答えた。
「分かりました。じゃ、もう一つだけ質問させてください。」
「どうぞ」
「このレクサスはどれほど凄いのですか?」
「ははは」
と桐野の軽快な笑い声が聞こえた。
そして楽し気で弾んだ声で答えた。
「トランプ大統領の専用車、ビーストとほぼ同じ凄さだ。日本の一般道路でも走れるように、重さと大きさはやや小さめに作ってありますがね」
「ビーストと同じ?凄いわ」凜が言った。
「いざという時は、そのビーストの凄さを発揮したら良い。いいいですか、時間厳守ですよ」
「ハイ」
凜がそう答えるとスマホは切れた。

「それが本当なら凄いわよ」蘭が言った。
蘭の説明では、ビーストの凄さはこうである。
・生物兵器、バイオテロ対策として、キャビンは完全に密閉される。
・使用しているタイヤは極めて強固だが、万が一タイヤが吹き飛ばされた場合、リムのみで走行が可能。
・燃料タンクは、フォームシールにより密封されているため直接銃撃等を受けても爆発しない。
・窓は運転席の窓のみ、3インチ(約7.6cm)だけ開く。
・車体下は爆弾、手榴弾から守るため耐爆処理が施されている。
・車体の素材には鉄鋼、アルミニウム、チタン、セラミックを利用。
・万が一の事態に備え、消防設備、酸素供給設備が格納されている。
・重さは約8トン。
・催涙ガス砲と夜間視界カメラが、車の前部に隠されてる。
・衛星電話が内蔵されており、ペンタゴンとの直接回線が可能。
・ビーストの価格は150万ドル。日本円で約1億6000万円。

俺も、ブルドッグも、無線で聞いていた緑川と彩夏も一斉に
ヘェー
と嘆息を漏らした。

俺たちは幾つかの謎を抱えたまま林道を走った。
奴らは何者だ?
桐野は何故奴らの情報を入手できるのか?

暫くして凜が言った。
「ね、奴らの中に、こちらの味方がいるんじゃないかな?」
「それって、二重スパイ?」蘭が言った。
「そう、ね、蘭、昨日、土石流に追われた時、道を塞いでいた白いワンボックスカーの後ろ座席の男、見なかった?」凜が言った。
「チラと見えたわ。少し笑ってた見たいね」蘭が言った。
そう、俺も見たのだ。
その男は、後ろ座席に身を沈めながら、走って来るこちらの車に視線を投げかけていた。そして、確かに少し笑っていた。知的で、聡明で、どちらかと言うと学者風で、そして意思が強そうな男だった。一瞬だが、俺は彼と目が合ったような気がした。

「あの顔、見覚えない?」凜が訊いた。
蘭は自分の中の記憶をまさぐった。そして言った。
「観た事もあるようだけど、分からない。」
「そうね」
凜もそれ以上、追及するのを止めた。

いずれにしろ、このレクサスは凄そうだ。頼りになれそうだ。
そう思うと、すこし安心した。
車は山間部の奥へ奥へと突き進んで行った。

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