追いかけてくるドローンを撃ち落とそうと提案したのは緑川だった。
今、そのドローンが追いかけて来るのだ。
緑川と彩夏がM4カービンで撃ち落とす予定だが、車を走らせながらの銃撃では命中率が極端に落ちる。
「だから、峠の茶屋の駐車場で待機して、追いかけて来るドローンを確実に狙って撃ち落とすの」
蘭が言った。
蘭が更に続けた。
「ジープはレクサスを盾にして停め、緑川と彩夏ちゃんは、ジープから降りて相手の攻撃から身を守りながら銃撃する。最悪、そのためにレクサスが破壊されたとしても、ジープで逃げればよい。竜神スカイラインを出て、田辺市の市街地へ出たら、相手も派手な攻撃は仕掛けてこない。だから、移動はジープで十分よ」
「オーケイ」
ブルドッグが頷いた。
蘭はその作戦を無線でジープに伝えた。
「いよいよか」
俺の心臓が高鳴るのが分かった。
俺にとって、銃撃戦などは映画の中だけであり、実際に遭遇したことも観た事もない。先ほどのドローンによる攻撃は、まるでスクリーンの上の来事の様だった。
そんな俺を気遣って凜が俺の手を優しく握った。
「大丈夫よ。私や蘭はそれなりの訓練を受けて来たから」
「そうや、俺らも雁屋の連中と何度か軍事訓練は受けている。心配はいらんよ、松岡はん」
ブルドッグが付け加えた。
やがて、ブルドッグはレクサスを峠の茶屋の駐車場に乗り入れた。
茶屋はロッジ風の作りで、玄関は閉じられ、店員はいるのかいないのか不明で鎮まっていた。
ロッジもそれに続くエントランスの木の階段も、看板のポールも強い雨の中で静かに佇んでいた。
ドローンは北側から俺たちを追って来るはずだった。
レクサスを盾にして、南側へジープを配した。
蘭とブルドッグと凜と俺の四人はレクサスの中に潜んだ。装甲版に守られたレクサスは、先日の爆破攻撃にも悠然と耐えていた。今回のドローンの機銃操作ぐらいでは、破壊はおろか、車体に傷さえも負わないだろう。
緑川と彩夏は、コンビニで売っている安物の半透明の雨合羽を着て、ジープを降り、レクサスの影でM4カービンを構えてドローンを待った。
暫くすると予想通り、ドローンの姿が現れた。
暗い銀色の雨の空に一点の黒い影が現れ、急速度で飛来し、俺たちの方へ接近してきた。レクサスの前方で銃弾が路面の雨を弾きながら襲い掛かって来た。
緑川と彩夏がM4カービンのトリガーを引き、したたかな機銃掃射を浴びせた。
ドローンは俺たちの上空二十メートル程まで降下してきて銃口を俺たちに向けた。前回の攻撃同様やはりタイミングが合わずに、ドローンの機銃は俺たちの真上では火を噴かず、ジープを外れた辺りで火を噴いた。
その間、真上を通り過ぎるドローンの下部めがけて、緑川と彩夏が銃撃した。
だが、ドローンはかすり傷一つ追わず、ジープの上空へと舞い上がった。
「どうした。二人とも外したのか」ブルドッグが窓を開けて緑川に叫んだ。
「いや、外すわけはない筈なんだが、おかしい!!」
「そう、この距離なら私にも落とせるはずよ!!」彩夏も叫んでいた。
ドローンが向きを変えてこちらへ向かってくるのが見えた。
「来たわ、二人ともレクサスの陰に隠れて!!」
凜が怒鳴った。
凜はレクサスから飛び降りると、車体を盾にする形で、飛んでくるドローンに肩から掛けたM4カービンの銃口を向けた。
激しい雨がたちまち凜をずぶ濡れにし、凜の形のいい上半身が露になった。凜は顔にかかる雨を払いもせず、冷静な視線でドローンに照準を当てていた。ドローンが掃射しながらほぼ二十メートル斜め正面に達した時、凜がドローンの下腹部めがけてカービンを連射した。
しかし、ドローンは無傷のままこちらへ飛んできた。
凜も、緑川も彩夏も地面に身を投げ出して伏せた。
ドローンの銃弾がレクサスの屋根を連射した。
屋根で銃弾がバラバラバラバラと音を立てて弾けた。しかし、レクサスに屋根は傷一つ追わなかった。
ドローンは俺たちの上を飛翔して北へ飛び、再び方向転換してこちらへと向かって来た。
「おかしい、このM4カービンはおかしい!!」
凜はそう言って、もう一方の右側に吊るしていたポーチからトカレフを取り出すと、レクサスの屋根に肘をついて、ドローンを狙った。
ドローンが再び俺たちの五十メートルほど前方に来た時、凜がトカレフの引き金を引いた。
一瞬の差だった。ドローンの機銃が火を噴くより早く、トカレフの銃弾がドローンを仕留めた。
ドローンは弾かれたように軌道を外れ、バランスを失い、揺らぎ、降下し、五十メートルほど南に落下した。
やった!!
皆が叫んだ。