ブルドッグは相変わらずゆっくりとレクサスを進めた。
俺はどうしても知りたいもう一つの疑問があった。
「社長、もう一つ教えて欲しいことがある」
「なんや」
「この防弾車レクサスと、拳銃は何処から調達したんだ」
「知ってどうすんねん」
「どうもしない。でも知りたい、あんたが何者かも」
「ま、破邪の儀式にも参加したあんたらや、教えたるわ、もちろん秘密やで」
そう言って、ブルドッグは語った。
如月会というNPO法人がある。
一種の情報交流センターであり人材交流センターでもある。
NPO法人の中には様々な研究会がありそこに重要な人と情報が集まってくる。それは時には巨大な金の流れを生み出したりする。
例えば、国際政治研究会、軍事研究会、資源開発研究会、宇宙産業研究会等々。
その一つに、宗教文化研究会というものが有り、ブルドッグはその研究会に所属している。
三年程前にそこで一人の人間と出会った。
雁屋遼介と言う人物だ。
雁屋遼介は見るからに体育会系という感じで、長身で筋肉質で、頭はGI刈りだった。
研究会のホテルでのあるパーティーだった。
雁屋の方から俺に近寄って来た。
「密海寺の阿闍梨ですね」
「そうです」
「一度破邪食の儀に参加したいのですが」
単刀直入に言って来た。
雁屋は紹介者の名前を告げた。その名前は言えないが政府の高官だった。
雁屋は破邪食の儀に三十代半ばの美男子を伴って来た。名前は猛。その頃、猛はゲイである自分を悲観していた。
破邪食の儀で、まず犬阿闍梨が猛を犯した。次いで緑川が犯した。その後、雁屋が犯した。
猛は密海寺の破邪の儀に加わることで、ゲイであるそのままで大日如来と融合し、ゲイであることに快美を得、誇りにし、ゲイとしての生きる覚悟を身に着けた。
雁屋と金城はすぐに密海寺の信徒となった。
雁屋はその後、きわめて重要な提案をしてきた。
雁屋が加わるシャドーアーミー、つまり影の軍隊に加わらないか、という提案だった。
そのシャドーアーミーの抱く構想は広大だった。
シャドーアーミーは実在の軍隊ではなく、インターネットで連絡を取りながらその都度形成される軍事組織だった。国境なき医師団という組織があるが、いわば、その軍事組織版がシャドーアーミーだ。
その連絡拠点は現在日本とアメリカにのみ存在するが、今後、ヨーロッパや中近東、東南アジア、韓国、中国に拡大してゆく予定だという。
今の国家や政府が人民を圧迫し始めた時に発動するのだという。
今や機能不全に陥っている国連軍に代わって、近い将来、シャドーアーミーが機能するだろうとも雁屋は言った。
その資金源の中心は如月会の国際ネットワークであり、他にも世界各国の大企業や個人が匿名で援助しているという。
シャドーアーミーのメンバーは、一年に一回程度、軍事訓練を行っている。
雁屋の狙いは、密海寺の教えをシャドーアーミーの行動要綱の中に取り入れたい、ということだった。
「精神的繋がりと性的繋がりで強固な組織を作り上げたい。そしてそれは平和主義で多点主義であらねばならない。それには、密海寺の立川流的密教が最適だ」と言った。
ちなみに、多点主義とは、一神教や一党独裁の正反対の考え方で、価値の中心点が多数存在する組織のことを言うらしい。
密海寺は現在、雁屋のシャドーアーミーに正式には未だ加わっていない。
ただ、一定の友好関係と協力関係は結んでいる。
シャドーアーミーのメンバーは定期的に密海寺の破邪の儀に参加して、性と精神と肉体を解放している。
今回、アーマードレクサスと拳銃トカレフを貸してくれたのは、シャドーアーミー傘下の民間の軍事訓練会社である。
「それがカリヤというキーワードの力だったのね」
ブルドックの隣の助手席で蘭が言った。
「そうや。雁屋さんの頼みと言うことで、俺たちは全面的にあなた達を支援し、保護し、目的を達成させて見せる」
「私を抱くことも含まれてるの?」
蘭が笑いながら意地悪く言った。
「それはそれ。ハハハハ」
ブルドッグはまたもや先ほどと同じように答え、豪快に笑った。
「AV撮影する前に頼んだ件はどうなったの?」俺の隣で凜が言った。
「腕の立つ護衛を二人ほど付けるって約束したわね」蘭が追い打ちをかけた。
「付けてるよ。緑川と彩夏だ」
「あの二人が?」
蘭と凜が同時に声を合わせて言った。
「緑川は格闘技と射撃のプロだ。彩夏も射撃はプロ級、空手の有段者だ」
俺は思わず後ろを振り返った。
後から付いてくる、迷彩色のジープの中で、ピクニックでも行くような感じの二人の影があった。