「ああ、十号、ありがとう、俺の桜子!!」
ブルドッグは十号の頭を抱え、愛おしく撫でまわし、そしてショートカットの髪の中に鼻を埋める。
くんくんと髪の中を嗅ぎ回る。
そうだ、この匂いだ、十号、桜子!
ブルドッグは嬉しそうな声を上げる。
ブルドッグの中に、青春のすべてが蘇ってくるようだ。
十号と桜子がブルドッグの中で融合する。
抱いているのは十号か、桜子か?
いずれにしろそれは肉を伴った幻影だった。
いや、ブルドッグにすれば、実体だった。
二十代半ばの桜子と寺の裏で初めて接吻した日。
暑い日だった。
蝉しぐれが降り注いでいた。
唇ではなく、かわいい頭への接吻だった。
微かに汗の匂いがする。
清々しい匂いだ。
いま、同じように、鼻先を十号として蘇った桜子の髪に埋める。
思わずブルドッグはその細い女体を抱き締める。
女体は苦し気に、しかし、楽し気に身をくねらせる。
ブルドッグの腕の中で女体がくねって逃げようとする。
しなやかで、伸びやかで、ブルドッグの腕の中で弾んでいる。
女体が腕を伸ばしてブルドッグの首を抱き締める。
ブルドッグはそれに応えて彼女の唇を吸う。
唇は冷たかった。
ブルドッグは唇に舌を差し入れて、女の舌を絡めとり、唾を啜り、そして吸い込んだ。
今吸い込んでいるのは十号の唾か?桜子の唾か?
どうでもよかった。それは同じものだった。同じ女体だった。
女体の唾は甘く、とろけて、ブルドッグの口腔をみたし、溢れている。
アア、十号、桜子!!
そう呟きながら、唇から舌を離し、今度は瞼の上を舐め始める。
ブルドッグの舌に、瞼の下の眼球の動きが感じられる。
不思議な物体だ。
眼球はころころ動き回り、何かをせわしく探しているようだ。
瞼を透して逆に、眼球に観察されている気がする。
唾が入り込むの抑えるため、魔部tがキュッと閉められる。
その動きが小動物のようで可愛い。
ブルドッグは、今度は目だけでなく、顔全体に涎を塗りたくり、そして味わう。
頬を舐め、鼻梁を舐め、額を舐め、舐めながらすべてを味わい尽くそうとする。
舌が通過した後は大量の涎が残されている。味わうというより、もはや涎による蹂躙であり、貪りに近い。
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