私は十号。超高級娼婦。青髭の館。

私は十号 04.ブルドッグの厚い舌、べろりべろりと十号を舐める。

翠(みどり)は夢の中をさ迷っていた。
夢は迷路となり、さらにその中に迷路があり、迷路のそれぞれに物語風景や断片が展開し、見知らぬ人物が立代わり入れ替り現れては消え、消えてはまた現れた。無限に続く迷路だった。
生暖かい、ぬるぬるした物体が顔を舐め回している。
男の声がぶつぶつ呟いている。

綺麗だ 桜子 お前は本当に綺麗だ
やっと会えた 桜子 ここにいたのか

翠はそこで目が覚めた。
目の前にぎょろめの顔が現れた。頬は垂れ、肉がだぶつき、まるでブルドッグだ。そして、五分刈りの坊主頭だ。
「きゃっ」
と、思わず小さく叫んだ。
翠はシーツの中で裸だった。
叫びを抑えるように分厚い唇が、翠の口を塞ぐ。
一層近くに迫った眼は黒く潤み、深い闇を讃えている。

「十号、驚かないで。安心して。ただ君を味わいたいだけだ」
「味わう?」
「そう、君は僕の記憶の底から現れて来た。桜子だ。かつてのようにお前を舐め回して、味わいたいだけだ」
「待って、私は十号よ。桜子って誰?」
「すまない、私の死んだ 妻だ。実にそっくりだ。桜子とまた会えた、本当にそう思うんだ、十号」
「いいわ、じゃ、私は桜子よ」
そう言って、翠は目を閉じた。

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