私は十号。超高級娼婦。青髭の館。

私は十号 01 .高級官僚。獣の交尾。

 その日の午後一時。
 森閑とした住宅街から少し離れた駅で、黒の高級セダンが翠を待っていた。
 窓はスモークガラスに被われ、外からは内部は見えなかった。
 後ろのドアが開き、厚化粧のボスと呼ばれる元女優が翠を招き入れた。
 後部座席からは、優雅な壁で仕切られた運転席は見えなかった。

「待ってたわ。十号」

 十号と呼ばれた瞬間から|翠《みどり》は娼婦となった。
 翠の中から日常の、美しく賢い良き妻である水原翠の人格が失われ、新たな娼婦の人格が入れ替わった。

 車の中に入ると、室内は広く、遮音効果は完璧で、レザーのシートが翠の体を贅沢に包み込んだ。
 幻想的なほど静かで優雅な空間だった。
 貴婦人の秘密の小部屋。
 そんな感じの広さと内装だった。
 足元には華麗なボックスが置かれ、中には煌めく宝石や、美しい衣類などが収まっていた。

「どう、素敵でしょう。
 十号、あなたのために揃えたわ。
 あなたにふさわしいコスチュームよ」
 ボスが微笑んで言った。

 翠は目隠しされた。
 翠は闇の中を一時間ほど浮遊し、移動した。
 移動している間に、ボスが翠を全裸にした。
 そのかわり、用意されたセクシーな下着や、ネックレスや宝石などで飾られた薄衣の服、そして靴などで裸を飾った。

「着きましたよ」

 そう言ってボスが目隠しを取った。
 古風で優雅なエレベーターの前だった。
 翠はエレベーターに乗り、軽い眩暈を感じながら上層階へ向かった。

 エレベーターが止まりドアが開くとフランス王朝風の回廊があった。回廊は入り組み、折れ曲がっていて、教えられた通り、歩いていった。
 集合住宅のはずなのに、回廊からは、他の住まいの玄関類は一切見えなかった。
 各部屋はそれぞれに孤立していて、視界から切り離され、プライバシーは完璧に守られていた。回廊から見える都会の空には霞みがかっていて、午後の光の気怠さが感じられた。

 指定された部屋の重厚な玄関が現れた。
 鉄製のライオンが口を開いていた。そして舌の上のインターフォンを押した。
 暫くして、ドアが開けられ、中年の太った男が出てきた。
 着ている、シャツと言うよりブラウスは、胸元で優雅に波打ち、黒いズボンの光沢から、高級ブランド品だとすぐわかった。

 そして、その顔はまさに|海豹《あざらし》だった。
 テレビでよく見かける外務省の高級官僚だった。
 ぎょろ目、目の淵が黒く、頬は膨らんでいる。愛嬌がありそうで、しかし、じっと睨まれると心底から怖くなる視線だ。
 彼は、今までに翠を二回買ってくれていた。
 海豹は微笑んで翠を招き入れた。

 部屋に入れるとすぐに、男は翠を抱きすくめて言った。
「よく来てくれたね。
 十号。
 今日も綺麗だよ。
 残念だが、今回はあまり時間がない。
 今すぐ、君が欲しい」

 海豹は翠の髪の毛の中に手を入れ、引き寄せ、強い力で何遍も唇を吸いながら、翠を抱き上げ、ベッドへ向かった。
 寝室にはベランダからの夏の光が降り注いでいた。

 ベッドに仰向けになると、天井一面の鏡の中で、大男に組みし抱かれている翠の姿が映っていた。
 翠の、薄く半透明のブラウスやスカートがめくれ上がり、紐のようなブラとパンティーが剥がれ、股を大きく開かされ、男が深く侵入している光景だった。
 男の背中は毛深く野生の獣となって波打ち、腰はまさに交尾のように前後していた。

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