私は十号。超高級娼婦。青髭の館。

私は十号 17.エピローグ 夫が帰って来る

翠は駅前で、ハザードランプを焚いて駅前で夫の泰斗を待っている。
六月にアメリカへ発つ夫を見送ってから、早くも一か月と少しが経っていた。

気温は三十度を超え、街は真夏直前の、白熱した陽にまぶされている。
高級娼婦として過ごした、先日までの記憶がどんどん薄れていくようだ。
青髭に秘密のメールを送っても何の返事まなかった。
あの男たちが全て幻だったかののように思えてくる。
そのせいもあって、十号は完全に翠へと戻りつつあるとと思った。

興味本位に高級娼婦になり、少ない人数ながらも見知らぬ男たちに抱かれ、体を舐められ、指でいじめられ、蛇身で貫かれた。

自分でも驚くことは、体も心もは素直に反応し、歓び、花唇を濡らし、男の熱いマグマを膣の奥で受けとめ、その都度見知らぬ絶頂に登り詰めたことだ。
更には、泰斗のことも思い出したが、罪悪感が一切なかったことだ。

娼婦として過ごした日は、合計で10日ほど。
その間、夫ともLINE をやり取りし、プールにも通った。
友人の由梨とレズビアンごっこもした。
これらの日々に、娼婦の日々は何の影響も与えていない。傷一つ追わしていない。
不道徳感はかけらもない。
そして今、夫の帰りを喜んで待ってる自分がいる。

私は多重人格者なのか?
ニンフォマニア、色情狂なのか?
そうであってもいいじゃないの?
私は心から泰斗を愛している。
翠は強くそう念じた。

駅構内から泰斗が出てきた。
翠の車を見つけて、手を振り、小走りで向かった来る。
満面の笑顔だ。
疲れを知らない、GIカットだ。
相変わらず、逞しい筋肉がポロシャツを押し上げている。

泰斗は後部座席にバッグを放り込み、勢いよく助手席に乗り込んだ。

お帰り
ただいま

泰斗は短く答えて、さりげなく軽く接吻してくる。
翠もそれに応えた。
翠はイグニッションを回して車を発進させた。

家に着き、玄関をを開け、中に入ると、泰斗はいきなり翠を抱きすくめた。
翠もそれに応えて、泰斗の背中に腕を回す。

泰斗の体から、微かに野獣の汗が臭って来る。、
泰斗はその場で、翠の服を剥ぎ、、ブラを引き下ろし、乳首を口に含む。

待って
待って
けだもの!!

翠が声を上げる。泰斗が笑って答える。

けだものにしたのは誰だ。
私?
そうだ!!

そう言って翠の唇を再び塞いだ。

泰斗は翠を略奪した獲物のように抱え上げ、そまま脂質へと向かった。
獲物をベッドに放り投げ、被さりながら、自分の服を脱ぎ捨てた。

ジムで鍛えた逞しい体が現れた。
翠には、たった一月ほどしか離れていなかったのに、長い時間が経ったようだった。
懐かしくさえ思われた。

お帰り 翠が再びいう。
ただいま

泰斗の懐かしい唇が、舌が、指が、吐息が翠を這い回る。
いま獣は、獲物は完全に独り占めして、肉にかぶりつき、しゃぶり、際日まで味わい、堪能していた。

昼食は泰斗の好きな焼肉にした。
テーブルの覆いを開け、焼肉用コンロを出し、網を備え、その上にリブロースを並べた。
脂を焼く甘い匂いが立ち上がった。

やはり、日本の牛は絶品だ。
丁寧に仕上げてある。

泰斗はそう言いながら肉を頬張った。
翠はさりげなくテレビを点けた。
悲惨なパレスチナの空爆下のニュースが流れた。

夥しい瓦礫の中に群衆に囲まれ、救急車が赤いランプを狂ったように回転させている。泣き叫ぶ子供たちが車の中に搬入されている。

あっ

翠は群衆の中で指揮を取っているパパの姿を見た。
そして、救急車の搬入口で、抱えた子供に声をかけているタケシの横顔を見た。

どうした?
泰斗が声をかけた。

私の知ってる人が映っている!

泰斗が画面に目を向けたときは、すでに二人の姿は消えていた。

****

本編はこちら

-私は十号。超高級娼婦。青髭の館。