私は十号。超高級娼婦。青髭の館。

私は十号 16.目隠しされてわが家へ

二人は、カーテンに仕切られ間に合わせで囲われた機内の隅で、服を着替えた。
十号はイエローレモンのブラウスにベージュのパンツ。
夏希は朝顔をあしらった清楚で清々しいワンピース。
カーテンから出てきた二人に男たちが

オオオ―

と、その美しさに歓声を上げた。

すまないが、目隠しさせてもらうよ。

仮面男がそう言って、十号と夏希お目を厚いマスクで覆った。
二人はは視界を奪われ、プロペラ音と揺れに満ちた闇の中に閉じ込められた。

仮面男も含め、機内の男たちは無口だった。
操縦する男の声が、時折基地と交信する声が聞こえた。大半が英語による専門の用語の遣り取りで、十合達には意味が分からなかった。

二、三十分経っただろうか。
ヘリが着陸するのが分かった。
一点で停止しながらゆっくり降りていき、やがて軽い衝撃と共に着地する。
プロペラが風を叩く音は止み、エンジンはアイドリングの音を立て、やがて鎮まった。
十号と夏希は目隠しをされたまま、それぞれの男に誘導されてヘリコプターを降りた。

十号は闇の中を少し進んだ所で、乗用車らしい車の後座席に乗せられた。
座席の奥に移動すると、横には、誘導してきた男とは別の男が乗り込んできた。
男の、太くて熱いい太腿が、ズボンの服地を通して感じられた。

発進! 男が声をかける。
了解! 運転席から返事が返ってくる。

目隠しされた闇の中に男が声をかけた。
若い声だ。

心配しないでください。あと一時間足らずで、ご自宅です。

何で私の住所を知ってるの?

機密事項です。

車はやがて敷地内を出て一般道から高速道路へ乗り入れたようだ。
エンジンの回転音が音が高くなり、軽やかな響きを立てる。
車内は静かで、疲労した筋肉と興奮した神経が鎮まって来る。
やがて心地よい眠気が襲い、今日の風景が切れ切れに現れる。

センターコートの前で手を振っているパパ。
桟橋のヨットで待っていた武史。
ポールのロープをカタカタ鳴らしている希望号。
青い海、青い空、飛び交う鴎。
操縦デッキの助手席で、武史と交わった光景。
パパが膣、武史がアナル、夏希が唇を犯した、バンガローでの歓喜の四人プレイ。
いきなり襲来したスコール。
雷が落ちる希望号。
次には、いきなり後部をミサイルで攻撃され、炎上する希望号。
助けに来た、海豹男と、カーニバルの仮面男。
ヘリから見た、西日を受けて輝く夏の相模湾。

……

着きましたよ。

男の声がする。
軽く揺すられて目が覚める。
男がアイマスクを外してくれる。
ぼんやりした視界の中に、懐かしい我が家の玄関がある。
家は夕日に染められている。

男は十号を降ろした後、助手席に移動する。
迷彩服ではなく、夏の黒いスーツ姿に、ノーネクタイの白いシャツ。
爽やかなサラリーマン、そんな感じの若い男だ。
男は窓を開け

ゆっくり休んでください。

そう言って窓を閉めた。
黒い高級セダンだ。
車は静かに優雅に、夕日の中の閑静な住宅街から消えていった。

十号が翠に入れ代わる。
わが家が、家並みが燃え上がっている。
今朝、家を出たばかりなのに、見知らぬ風景に変わっている。

いや、風景が変わったのではない。
私が変わったのだ。

翠は、そんなことをぼんやり考えながら、門扉と玄関の鍵を開け、廊下の電気を点ける。
リビングにバッグを放り出し、風呂に湯をためる。

テレビの電源を入れる。
夕方のニュースが流れている頃だ。
しかし、海で起こった、ヨットの爆発や、ドローんの墜落、小型漁船の火災など、NHKや民放のどこにも出てこない。チャンネルを何回変えてもでいてこない。
猛暑の川での事故や、汚職や、中東の戦争や、株価などのニュースが流れるだけだ。

思い出したように、翠はスマホを取りだし、LINEを確認する。

仕事が予定より早く終わった。
三日ほどで帰ります。

夫の泰斗からだった。

嬉しいわ、待ってます。

そう返信して、スマホを切った。
同時に、微かな不安が翠の中をよぎった。

私が変わったのなら、泰斗はそれに気付くのだろうか?

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