「今夜は宜しくお願いします」
恭介は仕事の現場の口調で言った。そして私を抱き締め接吻してきた。
胸が高鳴るのを感じていた。
夫の裕也が私を見詰めていた。
その視線がエロスに潤んでいた。
私は恭介の腕をほどき
「お腹が減ったわ!!」
そう言って、中央の銀のトレイから小さく切られたステーキを自分のさらに取り寄せた。
恭介が微笑みながら、コーン類や野菜スティックを私の小皿にとり寄せてくれた。
私は、なぜか恥ずかしく、夫や美帆さんの視線を避ける様に、無意識にうつむいて、肉を口に運んだ。
美帆さんが微笑みながら言った。
「由希さん、さっきの調子で堂々と胸を張るのよ。あなたの美しいおっぱいを突き出すのよ」
「オッケイ」
私は気合を込め、前を向き、胸を張り、柔らかな肉を頬張った。
皆がクスクス笑った。
夫の裕也が美帆さんに唇を寄せた。
美帆さんは、それに答え、腕を裕也の首に回し、自らも裕也の舌を吸い込むのが見えた。
上げた腕から脇にかけて、美帆さんの白亜の体が剥き出しになった。小振りの美しい乳房の横の膨らみを裕也の掌が撫でていた。
唇を離し、裕也の首から腕をほどいて、美帆さんが私に言った。
「スワッピングの前のキスってとても大事ね。互いの夫婦が心が開くために。そう思うわない」
私は口の中で肉を咀嚼しながら
「うん うん」と首を振る仕草で答えた。
確かにキスは大切だ。
恭介にキスされたことで、覚悟が決まり、心が開かれ、体が開かれたようだった。
「焼酎の水割りはできるの?」
私は恭介に、部下にでも訊くような語調で言った。
「出来ますよ、極上の焼酎がある。」
恭介はそう言って、立ち上がり、キッチンの横のホームバーのカウンターから、工芸品のように美しいシンプルな曲線の焼酎のボトルを持って来た。
恭介はテーブルに用意されたグラスに、氷の塊を少し入れ、紫色のボトルから透明な焼酎を慎重に注いだ。
「どうぞ」
恭介が勧めた。
私はまず、一口味を確かめた。
芋焼酎特有の匂いが微かに有った。すこし甘さがあって独特の、コクと粘りが感じられた。上品な味だった。
ラベルを見た美帆さんが言った。
「由希さん、飲みすぎたらだめよ、これ四十五度もあるわ」
「そんなに?」
「そうだよ、火が点くほどの度数だよ、思い切り薄めたからね」
恭介が言った。
薄めたにしてもその上質な味に変わりはなかった。