愛人もどき。危険な女二人。

愛人もどき60 ハニートラッパー女二人の組織の闇。装甲レクサスの凄み。r

2021/04/25

とにかく俺たちは計画通り林道を走った。
雨は止むことなく林と空とレクサスとジープを濡らし続けた。

俺のスマホが鳴った。あの桐野だった。
「状況はどうですか。目的の時間まで、三時間を切りました。大丈夫ですか?」
「少し面倒だ」
「そうですか。だが、蘭と凜なら大丈夫です。それにそのレクサスは凄いのです。時間厳守です。」
「奴らは何者だ?」
「私にもよくわかりません。それより伝えたいことがある。彼らは戦力を増強したようだ」
「増強?」
「もう一台の車を追加した。加えて二チームとなった。」
「でも俺たちはドローンを追撃した。俺たちの位置の把握と追跡はもう出来ないはずだ」
「彼らも必至だ。全ての情報と推察を駆使して、あなた達を追っている」
すると凜が俺のスマホを取り上げて代わった。

「凜です」
「お元気ですか?」桐野が言った。
「元気です。一つどうしてもお聞きしたいことがあります」
「何ですか?」
「前から気になってたのですが、あなたは、どうして奴らの情報がわかるのですか?」
蘭が振り向いて、そうだ、そうだという身振りで頷いた。
相手は沈黙した様だった。

「高度な機密事項に触れますので、今はお答えできません」
桐野はそっけなく答えた。
「分かりました。じゃ、もう一つだけ質問させてください。」
「どうぞ」
「このレクサスはどれほど凄いのですか?」
「ははは」
と桐野の軽快な笑い声が聞こえた。
そして楽し気で弾んだ声で答えた。
「トランプ大統領の専用車、ビーストとほぼ同じ凄さだ。日本の一般道路でも走れるように、重さと大きさはやや小さめに作ってありますがね」
「ビーストと同じ?凄いわ」凜が言った。
「いざという時は、そのビーストの凄さを発揮したら良い。いいいですか、時間厳守ですよ」
「ハイ」
凜がそう答えるとスマホは切れた。

「それが本当なら凄いわよ」蘭が言った。
蘭の説明では、ビーストの凄さはこうである。
・生物兵器、バイオテロ対策として、キャビンは完全に密閉される。
・使用しているタイヤは極めて強固だが、万が一タイヤが吹き飛ばされた場合、リムのみで走行が可能。
・燃料タンクは、フォームシールにより密封されているため直接銃撃等を受けても爆発しない。
・窓は運転席の窓のみ、3インチ(約7.6cm)だけ開く。
・車体下は爆弾、手榴弾から守るため耐爆処理が施されている。
・車体の素材には鉄鋼、アルミニウム、チタン、セラミックを利用。
・万が一の事態に備え、消防設備、酸素供給設備が格納されている。
・重さは約8トン。
・催涙ガス砲と夜間視界カメラが、車の前部に隠されてる。
・衛星電話が内蔵されており、ペンタゴンとの直接回線が可能。
・ビーストの価格は150万ドル。日本円で約1億6000万円。

俺も、ブルドッグも、無線で聞いていた緑川と彩夏も一斉に
ヘェー
と嘆息を漏らした。

俺たちは幾つかの謎を抱えたまま林道を走った。
奴らは何者だ?
桐野は何故奴らの情報を入手できるのか?

暫くして凜が言った。
「ね、奴らの中に、こちらの味方がいるんじゃないかな?」
「それって、二重スパイ?」蘭が言った。
「そう、ね、蘭、昨日、土石流に追われた時、道を塞いでいた白いワンボックスカーの後ろ座席の男、見なかった?」凜が言った。
「チラと見えたわ。少し笑ってた見たいね」蘭が言った。
そう、俺も見たのだ。
その男は、後ろ座席に身を沈めながら、走って来るこちらの車に視線を投げかけていた。そして、確かに少し笑っていた。知的で、聡明で、どちらかと言うと学者風で、そして意思が強そうな男だった。一瞬だが、俺は彼と目が合ったような気がした。

「あの顔、見覚えない?」凜が訊いた。
蘭は自分の中の記憶をまさぐった。そして言った。
「観た事もあるようだけど、分からない。」
「そうね」
凜もそれ以上、追及するのを止めた。

いずれにしろ、このレクサスは凄そうだ。頼りになれそうだ。
そう思うと、すこし安心した。
車は山間部の奥へ奥へと突き進んで行った。